脳卒中は、後遺症により日常生活に大きな支障をきたす可能性のある病気です。麻痺や言語障害、高次脳機能障害といった後遺症に悩まされる方も少なくありません。しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、これらの症状を改善し、より自立した生活を送る可能性を高めることができます。
本記事では、脳卒中リハビリの具体的な訓練内容や、回復期・維持期・生活期のリハビリ、費用や保険適用まで、網羅的に解説します。
日常生活への復帰を目指す上で、リハビリは重要な役割を担います。早期から集中的なリハビリに取り組むことの重要性についてもご説明しますので、脳卒中を経験された方、あるいはそのご家族の方はぜひご一読ください。
目次
脳卒中リハビリで目指せる回復と訓練の種類
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に障害が起こる病気です。後遺症により、日常生活に大きな支障をきたす場合もあります。しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、その影響を最小限に抑え、より自立した生活を送る可能性を高めることができます。
脳卒中からの回復を目指すには、早期から集中的なリハビリテーションに取り組むことが重要です。
この見出しでは、脳卒中リハビリで目指せる回復と、行われる訓練の種類についてご説明します。

麻痺した手足の機能回復訓練(理学療法)
理学療法は、身体の機能回復を目的としたリハビリテーションです。
脳卒中では、麻痺によって手足の動きが悪くなることがあります。理学療法では、筋力トレーニングや関節可動域訓練、バランス練習などを通して、これらの機能回復を目指します。
例えば、麻痺した腕を動かす練習では、最初は理学療法士の補助を受けながら、徐々に自分の力で動かせるように練習していきます。腕が上がらなかった方が、再びお茶碗を持てるようになる、といったイメージです。
また、歩行訓練では、平行棒や歩行器を使って安全に歩く練習を行い、最終的には杖を使わずに、あるいは補助なしで歩けるように目指します。車椅子での生活を余儀なくされた方が、再び自分の足で歩けるようになる、というのは大きな目標となるでしょう。
回復期には、特に集中的なリハビリテーションが重要です。研究によると、早期に運動療法を開始することで、入院期間の短縮や機能的なスコアの向上といった効果が期待できると報告されています。
言語障害の改善訓練(言語聴覚療法)
脳卒中によって、言葉がうまく話せなくなったり、相手の言うことが理解しにくくなるといった言語障害が起こることがあります。このような状態を「失語症」といいます。言語聴覚療法では、発音練習や言葉の理解・表現の訓練などを通して、コミュニケーション能力の回復を目指します。
例えば、絵カードを使って物の名前を答える練習や、簡単な文章を作って会話する練習などを行います。「りんご」が「ごんり」のように言い間違えてしまう、といった症状に対して、正しい発音ができるように練習していきます。
また、飲み込みがうまくいかないといった嚥下障害がある場合は、咀嚼や飲み込みの練習も行います。
言語聴覚療法は、患者さんが再び円滑なコミュニケーションを取れるようになるための、大切な訓練です。
高次脳機能障害のリハビリテーション
高次脳機能障害とは、記憶力や注意力の低下、計画を立てて行動することが難しくなるなど、脳の働きに障害が生じることです。例えば、約束を忘れてしまったり、料理の手順が分からなくなったりする、といった症状が現れます。高次脳機能障害のリハビリテーションでは、認知機能の維持・改善を目的とした訓練を行います。
例えば、記憶力を高めるためのゲームや、注意力を維持するための課題などに取り組みます。これらの訓練を通して、日常生活に必要な認知機能の回復を目指します。
高次脳機能障害のリハビリテーション期間は、他の脳血管疾患の回復期リハビリテーションよりも長く、最長で180日となっています。
高次機能障害について、以下も併せてご参考ください。
▶脳卒中後の人格変化は高次脳機能障害?症状と治療法を医師が解説
嚥下障害のリハビリテーション
脳卒中では、食べ物を飲み込みにくくなる嚥下障害が起こることがあります。これは、食べ物が誤って気管に入ってしまう「誤嚥」につながり、肺炎などの原因となる危険性があります。嚥下障害のリハビリテーションでは、安全に食事ができるように、咀嚼や飲み込みの機能改善を目指します。
具体的には、舌や口の周りの筋肉を動かす練習や、食べ物のとろみを調整することで飲み込みやすくする工夫などを行います。また、誤嚥を防ぐための姿勢指導なども行います。
嚥下障害のリハビリについて、以下でも詳しく解説しています。
▶脳卒中の嚥下障害と食事の工夫【医師監修】
日常生活動作(ADL)の改善訓練(作業療法)
作業療法は、日常生活で必要な動作をスムーズに行えるようにするためのリハビリテーションです。脳卒中では、着替えや食事、トイレなど、日常生活の基本的な動作が難しくなることがあります。作業療法では、これらの動作を練習し、自立した生活を送れるように目指します。
例えば、ボタンをかける練習や、箸を使って食事をする練習、トイレでの動作練習などを行います。また、家事や趣味など、患者さんがやりたい活動を通してリハビリテーションを進めることもあります。
作業療法では、患者さん一人ひとりの状況や目標に合わせて、最適な訓練プログラムを作成します。
最近注目されている研究では、脳卒中後の腕の運動障害に関して、作業療法による客観的なパフォーマンス評価と患者さん自身の主観的な評価の間には重要な違いがあることが示唆されています。この研究では、患者さんの社会経済的な背景も、主観的な評価に影響を与える可能性があることが示されました。これらの知見は、より効果的なリハビリテーションを提供するために役立つと考えられています。

早期リハビリの劇的効果!
脳梗塞で右半身麻痺となった55歳男性に、発症48時間後からベッドサイドでのリハビリを開始しました。従来は「安静第一」でしたが、現在は早期からの離床と機能訓練が推奨されています。
理学療法士と協力して、まず座位保持から始め、段階的に立位、歩行訓練へと進めました。3週間後には歩行器を使って病棟内を歩けるようになり、「こんなに早くから動いて大丈夫だったんですね」と患者さんも驚かれていました。
早期リハビリは脳の可塑性(回復する力)を最大限に活用し、廃用症候群(使わないことによる機能低下)を防ぐ重要な治療法です。
脳卒中リハビリの進め方と費用・保険適用
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に障害が起こる病気です。後遺症によって日常生活に大きな支障をきたす場合もあります。しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、その影響を最小限に抑え、より自立した生活を送れるようになる可能性が高まります。
この章では、脳卒中リハビリテーションの進め方、費用、保険適用について、できるだけわかりやすく説明します。
早期から適切なリハビリテーションに取り組むことで、日常生活への復帰がスムーズになります。

回復期リハビリテーション病棟とは
回復期リハビリテーション病棟とは、脳卒中の急性期治療が終わり、病状が安定した後に、集中的なリハビリテーションを行うための専門病棟です。
医師、看護師、理学療法士(体の動きのリハビリテーションを専門とする人)、作業療法士(日常生活動作のリハビリテーションを専門とする人)、言語聴覚士(言葉や飲み込みのリハビリテーションを専門とする人)など、さまざまな専門家がチームを組んで、患者さん一人ひとりに合わせたリハビリテーションを提供します。
回復期リハビリテーション病棟では、1日に最大3時間のリハビリテーションを受けることができ、日常生活動作の改善や社会復帰を目指します。
この回復期に集中的なリハビリテーションを行うことは非常に重要です。なぜなら、発症から6ヶ月以内は脳の機能回復が最も期待できる時期だからです。
この時期に適切なリハビリテーションを行うことで、より多くの機能を取り戻せる可能性が高まります。
維持期・生活期のリハビリテーション
回復期リハビリテーション病棟での集中的なリハビリテーションの後、自宅や施設に戻ってからも、継続してリハビリテーションを行うことが大切です。
これを維持期・生活期のリハビリテーションといいます。
維持期・生活期のリハビリテーションでは、回復期で得られた機能を維持し、さらに向上させることを目指します。また、日常生活で困っていることへの対策を立て、より快適な生活を送れるように支援します。
回復期が終了した後も、継続的なリハビリテーションは機能維持・向上に不可欠です。自宅でのリハビリテーションは、生活に密着した実践的な訓練となるため、日常生活の質を高める上で重要な役割を果たします。
訪問リハビリテーション
通院が難しい方のために、理学療法士や作業療法士などが自宅を訪問してリハビリテーションを行う訪問リハビリテーションがあります。訪問リハビリテーションでは、自宅での生活環境に合わせて、日常生活動作の練習や筋力トレーニングなどを行います。
また、住宅改修や福祉用具のアドバイスなども行い、自宅での生活をより安全で快適なものにするための支援を行います。
訪問リハビリテーションは、通院が困難な方にとって、自宅で専門的なリハビリテーションを受けられる貴重な機会です。
脳卒中リハビリテーションの費用と保険適用
脳卒中リハビリテーションの費用は、医療保険や介護保険が適用されます。
回復期リハビリテーション病棟に入院する場合は、医療保険が適用され、自己負担額は年齢や収入によって1~3割となります。
維持期・生活期のリハビリテーションや訪問リハビリテーションは、介護保険が適用される場合と医療保険が適用される場合があります。費用の詳細は、医療機関や介護事業所にご確認ください。
家庭でできるリハビリテーションの方法
専門家によるリハビリテーションだけでなく、家庭でもできるリハビリテーションを行うことが、回復を早めるために重要です。
例えば、関節の可動域を広げるストレッチや、タオルを使った筋力トレーニング、バランスボールを使ったバランス練習などがあります。
無理のない範囲で、毎日継続して行うことが大切です。
また、電気刺激療法など、家庭でできる機器を用いたリハビリテーションもあります。
リハビリテーション中の注意点と効果を高める方法
リハビリテーション中は、体に負担をかけすぎないように、自分のペースで進めることが大切です。痛みや疲労を感じた場合は、すぐに中止し、医療機関に相談しましょう。
また、リハビリテーションの効果を高めるためには、目標を明確にし、積極的に取り組むことが重要です。家族や医療スタッフとのコミュニケーションを密にすることも、リハビリテーションをスムーズに進めるために役立ちます。
研究によると、脳卒中後のリハビリテーションには、早期に開始する、適切な強度で行う、そして継続することが重要であるとされています。また、鍼電極療法のような補助的な療法も、足関節下垂のような特定の症状に効果的である可能性が示唆されています。
まとめ

脳卒中リハビリは、早期から集中的に取り組むことで、日常生活への復帰を早める可能性を高めます。
回復期リハビリ病棟では、専門家チームによる集中的なリハビリテーションが提供され、日常生活動作の改善や社会復帰を目指します。 その後も、維持期・生活期のリハビリテーションや訪問リハビリテーションを通して、回復した機能の維持・向上に努めましょう。
家庭でもできるリハビリテーションを積極的に取り入れることも効果的です。 費用は医療保険や介護保険が適用されます。 リハビリテーション中はご自身のペースを大切に、専門家と相談しながら進めていきましょう。
参考文献
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-情報提供医師
松本 和樹 Kazuki Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
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