脳卒中は、ある日突然、私たちの人生を大きく変えてしまう可能性のある病気です。
手足の麻痺、言語障害、意識障害など、後遺症が残ることも少なくありません。厚生労働省の調査によると、脳卒中患者数は増加傾向にあり、令和2年には約147万人 reported されています。特に70代から80代で発症のピークを迎えますが、若い世代でも発症するケースがあります。
しかし、脳卒中は予防できる病気でもあります。日々の生活習慣を少し見直すだけで、リスクを大きく減らすことができるのです。
この記事では、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つの種類を解説するとともに、今日から始められる効果的な予防法を5つご紹介いたします。
ご自身の生活習慣と照らし合わせながら、脳卒中から身を守るための知識を身につけていきましょう。
目次
脳卒中の種類と原因を知る3つのポイント

脳卒中は、脳の血管に問題が起こり、脳の細胞が酸素や栄養を受け取れなくなることで様々な症状が現れる病気です。
大きく分けて、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つの種類があります。それぞれの原因や症状、治療法が異なるため、まずは種類ごとの特徴を理解することが大切です。
脳梗塞:血管が詰まることで起こる脳卒中
脳梗塞は、脳の血管が血栓(血液の塊)によって詰まり、血流が途絶えることで発症します。脳卒中全体の約7割を占め、最も頻度の高い種類です。
血管が詰まる原因の1つとして、動脈硬化が挙げられます。動脈硬化とは、血管の壁が厚く硬くなり、血管が狭くなってしまう状態です。血管が狭くなることで血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。
もう1つの原因は、心臓の中にできた血栓が脳の血管に運ばれて詰まることです。これは心房細動という不整脈によって引き起こされることがあります。心房細動は心臓の拍動のリズムが乱れる病気で、心臓内に血栓ができやすくなるため、脳梗塞のリスクを高めます。
脳梗塞の症状は、詰まった血管の位置や範囲、そして血流が途絶えた時間によって大きく異なります。代表的な症状には、手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、ものが二重に見える、視野が狭くなる、ふらつきなどがあります。これらの症状が突然現れた場合は、一刻も早く医療機関を受診することが重要です。
近年の研究では、動脈硬化が原因で心臓や血管に起こる病気の総称であるアテローム性動脈硬化性心血管疾患の患者において、コルヒチンという薬が虚血性脳卒中(脳梗塞やくも膜下出血など)のリスクを減らす可能性が示唆されています。
脳出血:血管が破れることで起こる脳卒中
脳出血は、脳の血管が破れて出血し、周囲の脳組織を圧迫することで発症します。高血圧が主な原因であり、長期間の高血圧によって血管がもろくなり、破れやすくなります。
脳出血の症状は、出血の場所や量によって様々です。脳梗塞と同様に、手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、ものが二重に見える、視野が狭くなる、ふらつき、激しい頭痛などが起こります。また、意識障害やけいれん、嘔吐なども見られることがあります。脳出血は脳梗塞よりも症状が重くなることが多く、後遺症が残る可能性も高い病気です。
くも膜下出血:脳を覆う膜の下で出血する脳卒中
くも膜下出血は、脳の表面を覆っている「くも膜」という膜の下にある血管が破れて出血する病気です。脳動脈瘤という脳血管の一部がこぶのように膨らんだものが破裂することが主な原因です。
くも膜下出血の代表的な症状は、突然の激しい頭痛です。これは「頭をバットで殴られたような痛み」と表現されるほどの激痛を伴う場合もあります。その他、意識障害、嘔吐、けいれん、首の痛みなども起こることがあります。
くも膜下出血は、短時間で死に至る可能性もある非常に危険な病気です。緊急を要する症状が現れた場合は、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
脳卒中を予防するために今日からできる対策5選
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳細胞に必要な酸素や栄養が行き渡らなくなり、様々な神経症状が現れる病気です。後遺症が残る可能性も高く、生活の質を大きく低下させてしまうため、予防が非常に重要です。
脳卒中は決して他人事ではありません。厚生労働省の患者調査によると、脳卒中患者数は増加傾向にあり、令和2年では約147万人と報告されています。70代から80代が発症のピークで、70歳代までのすべての年代で男性の発症率が女性より高いことが分かっています。誰もが脳卒中のリスクを抱えていることを理解し、今からできる予防に取り組むことが大切です。
今日から始められる5つの具体的な対策をご紹介しましょう。これらを意識的に生活に取り入れることで、脳卒中のリスクを大きく減らすことができます。

塩分控えめな食生活を心がける
塩分の過剰摂取は高血圧の大きな原因となり、高血圧は脳卒中の発症リスクを高める危険因子です。
普段の食事から塩分を控えるための具体的な方法をいくつかご紹介します。
- 調味料の使い方を工夫する: 醤油、ソース、味噌などの調味料は塩分を多く含んでいます。計量スプーンや計量カップを使って使用量をきちんと測り、使い過ぎないようにしましょう。また、減塩タイプの調味料に切り替えたり、お酢や柑橘類、ハーブ、香辛料などを活用して風味を豊かにすることで、塩分を控えめにしても美味しく食事を楽しむことができます。
- 加工食品を減らす: ハム、ソーセージ、インスタント食品、漬物などは、塩分を多く含んでいます。これらの食品の摂取頻度や量を減らし、代わりに新鮮な食材を使った自炊を心がけましょう。
- 外食の際はメニューを選ぶ: 外食の際は、塩分の少ないメニューを選びましょう。うどんやそばなどの麺類は、つゆに塩分が多く含まれているため、スープを全部飲み干さないように注意が必要です。丼物や定食よりも、野菜や魚介類を中心としたメニューを選ぶと、自然と塩分を抑えることができます。
- だしを上手に使う: 昆布、鰹節、煮干しなどを使い、風味豊かなだしをしっかりとることで、素材本来のうまみが引き出され、少ない塩分でも満足感が得られます。
- 薄味に徐々に慣れる: 薄味に慣れることで、素材本来の味をより深く味わうことができるようになります。最初は物足りないと感じるかもしれませんが、時間をかけて徐々に慣れていきましょう。
厚生労働省が推奨する1日の塩分摂取量は、健康な成人男性で7.5g未満、女性で6.5g未満、高血圧の人は6g未満です。ご自身の状況に合わせて、適切な塩分摂取量を心がけましょう。

食事日記による塩分管理
高血圧の60代男性に食事日記をつけてもらったところ、1日の塩分摂取量が15g以上あることがわかりました。推奨量の2倍以上でしたが、本人は「普通に食べているだけ」という認識でした。
管理栄養士と協力して、醤油を減塩タイプに変える、出汁を効かせて薄味でも美味しく感じる工夫などを指導しました。
3ヶ月で塩分摂取量を10g以下に減らし、血圧も20mmHg下がりました。
「味の工夫で血圧がこんなに変わるとは」と驚かれた患者さんの変化を見て、日常の小さな工夫が大きな予防効果をもたらすことを確信しています。
適度な運動を継続する
適度な運動は、血圧を下げ、体重管理にも役立ち、脳卒中の予防に効果的です。ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動は、心臓や血管の機能を改善し、血流を促進する効果があります。1回30分程度の軽い運動を週に数回行うだけでも、脳卒中のリスクを低減できる可能性があります。
運動は、継続することが重要です。無理のない範囲で、楽しみながら続けられる運動を見つけましょう。例えば、近所の公園を散歩したり、自転車に乗ったり、友人とスポーツを楽しんだりするのも良いでしょう。
禁煙を心がける
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。また、一酸化炭素は血液中の酸素運搬能力を低下させ、動脈硬化を促進します。これらの作用は、脳卒中のリスクを高める大きな要因となります。
禁煙は、脳卒中だけでなく、様々な病気の予防にもつながります。禁煙は難しいと感じる方もいるかもしれませんが、禁煙外来などを利用して医師や専門家のサポートを受けることも可能です。
適正な血圧を維持する
高血圧は、脳卒中の最も大きな危険因子の一つです。家庭用血圧計で毎日血圧を測定し、ご自身の血圧を把握しましょう。高血圧と診断された場合は、医師の指示に従って、薬物療法などの適切な治療を受けることが重要です。
2025年に発表されたメタ分析によると、血管内治療後の脳梗塞患者において、集中的な血圧管理(収縮期血圧<140 mmHg)は、90日後の機能的自立度を低下させる可能性が示唆されました。これは、過度に血圧を下げることが、脳への血流を減少させ、回復を妨げる可能性があることを示しています。適切な血圧管理は、医師と相談しながら個々の状況に合わせて行う必要があります。
定期的な健康診断を受ける
定期的な健康診断は、脳卒中の危険因子となる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの早期発見・早期治療につながります。早期に発見し、適切な治療を開始することで、重症化を防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。
健康診断の結果をきちんと確認し、医師と相談しながら、生活習慣の改善に努めましょう。
まとめ

脳卒中は、血管が詰まったり破れたりすることで脳に障害が起こる病気です。大きく分けて脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3種類があり、それぞれ原因や症状が異なります。
脳卒中は後遺症が残る可能性も高く、生活の質を大きく低下させるため、予防が重要です。
今日からできる予防として、塩分控えめな食生活、適度な運動、禁煙、血圧管理、定期的な健康診断などが挙げられます。
これらの対策を日々の生活に取り入れ、脳卒中のリスクを減らしましょう。
少しでも不安を感じたら、早めに医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
参考文献
- Naji Mansoor A, Choudhary V, Mohammad Nasser Z, Jain M, Dayanand Sharma D, Jaramillo Villegas M, Janarthanam S, Ayyan M, Ravindra Nimal S, Ahmad Cheema H, Ehsan M, Rehman MAU, Nashwan A and Dani SS. “More intensive versus conservative blood pressure lowering after endovascular therapy in stroke: a meta-analysis of randomised controlled trials.” Blood pressure 34, no. 1 (2025): 2475314.
- Zhu S, Pan W, Yao Y and Shi K. “The efficacy of colchicine compared to placebo for preventing ischemic stroke among individuals with established atherosclerotic cardiovascular diseases: a systematic review and meta-analysis.” Scandinavian cardiovascular journal : SCJ 59, no. 1 (2025): 2441112.
- Yang H, Xing H, Zou X, Jin M, Li Y, Xiao K, Cai L, Liu Y and Yang X. “Efficacy and safety of intensive blood pressure control in patients over 60 years: A systematic review and meta-analysis.” Clinical and experimental hypertension (New York, N.Y. : 1993) 47, no. 1 (2025): 2465399.

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
戻る