あなたは、高血圧が脳卒中を引き起こす最大の危険因子であることをご存知でしょうか?
自覚症状の少ない高血圧はサイレントキラーとも呼ばれ、知らないうちに血管を傷つけ、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった深刻な病気を引き起こす可能性があります。
日本では、40~74歳の約4300万人が高血圧と言われています。自覚症状がないまま放置されやすく、知らないうちに血管を蝕み、脳卒中のリスクを高めているのです。
この記事では、高血圧が脳に及ぼす影響、そして具体的な予防策について医師が詳しく解説していきます。
血圧のコントロール方法や最新の研究結果を知ることで、あなたやあなたの大切な家族を脳卒中から守るための第一歩を踏み出しましょう。
目次
高血圧が脳卒中に与える影響とメカニズム3つのポイント

高血圧は、放っておくと脳卒中という重大な病気を引き起こす可能性のある危険な状態です。高血圧自体は自覚症状が少ないため、ご自身がどれほど脳卒中のリスクにさらされているか気づいていない方も多くいらっしゃいます。
そこで、高血圧が脳卒中にどのように影響するのか、そのメカニズムを3つのポイントに絞ってわかりやすく解説します。
高血圧は脳卒中の最大の危険因子
高血圧は、脳卒中の発症に最も大きく関わる危険因子です。血圧が高い状態が続くと、血管の壁は常に強い圧力にさらされ、まるで風船のように膨らんだ状態が続きます。
健康な血管は弾力性があり、しなやかに血液を送り出すことができます。しかし、高血圧によって血管壁が常に圧迫されると、血管は徐々に弾力性を失い硬くなります。そして血管の内側が傷つき、血管が狭くなったり、もろくなったりします。これが動脈硬化です。動脈硬化は血管が詰まりやすくなるだけでなく、血管が破れやすくなる原因にもなります。
中国で行われた調査によると、ホモアギニンやADMA/SDMAといった血管の健康状態を反映する物質の血中濃度が高いほど、脳の血管が詰まるタイプの脳卒中である脳梗塞のリスクが高まることがわかっています。
高血圧以外の脳卒中の危険因子
高血圧以外にも、脳卒中の危険因子はいくつかあります。加齢とともに血管は老化し、動脈硬化も進行しやすくなるため、高齢になるほど脳卒中のリスクは高くなります。
また、男性は女性に比べて脳卒中になりやすい傾向があります。家族に脳卒中の患者がいる場合は、遺伝的な要因も考えられます。さらに、喫煙、肥満、糖尿病、脂質異常症、過度の飲酒、運動不足、ストレス、心房細動などの不整脈も危険因子です。
2025年に発表された研究(Determinants of stroke following percutaneous coronary intervention in patients with acute coronary syndrome: a systematic review and meta-analysis.)では、急性冠症候群患者における経皮的冠動脈インターベンション後の脳卒中の決定要因を調査し、従来のリスク因子に加えて、合併症や手技関連因子も脳卒中のリスクを高めることを示しています。
これらの危険因子を複数持っている場合は、脳卒中のリスクがさらに高まるため、生活習慣の改善など、注意が必要です。

ストレスと血圧の急上昇
会社で大きなトラブルがあった翌日に脳出血で搬送された45歳の管理職男性がいました。普段は血圧140/90程度でしたが、入院時は220/120まで上昇していました。強いストレスは交感神経を刺激し、血圧を急激に上げて脳血管に過度な負担をかけます。
この患者さんには降圧治療と並行して、ストレス管理の重要性を説明し、リラクゼーション法も指導しました。
心と体は密接につながっており、ストレス対策も脳卒中予防の重要な要素です。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血それぞれへの影響
脳卒中には、大きく分けて「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つの種類があります。高血圧はこれらのすべての種類の発症リスクを高めます。
- 脳梗塞: 脳の血管が血栓(血液の塊)によって詰まり、脳細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなる病気です。高血圧によって動脈硬化が進むと、血管が狭くなり血栓ができやすくなります。
- 脳出血: 脳の血管が破れて出血する病気です。高血圧によって血管壁がもろくなると、血管が破裂しやすくなります。
- くも膜下出血: 脳の表面にある血管が破れて出血する病気です。高血圧は脳動脈瘤(脳の血管にできるこぶ)の形成を促進し、その破裂のリスクを高めます。
脳血流の変化と血管へのダメージ
高血圧は、血管に絶え間ない負担をかけ、気づかないうちに血管を傷つけていきます。まるで川の流れが速すぎると川底が削られるように、高い血圧によって血管の内壁は常に大きな圧力にさらされ、傷ついていきます。
血管の内壁が傷つくと、血管は硬くもろくなり、血液の流れが悪くなります。脳に十分な酸素や栄養が送られなくなると、脳細胞はダメージを受け、脳卒中のリスクが高まります。2000年から2023年にかけて行われた研究をまとめた報告によると、高血圧の人は正常血圧の人に比べて脳への血流が少ないことが示されています。これは高血圧によって脳の血管の抵抗が増加するためです。
また、頭蓋内動脈長胞状膨大(IADE)と呼ばれる脳の血管の異常も高血圧と関連していることが報告されており、脳梗塞の患者さんでは、ラクナ梗塞、微小出血、白質病変といった脳の小さな血管の病変(脳小血管病)のマーカーの発生率が高いことと関連しています。
血圧コントロールで脳卒中を予防する4つの方法

ここまで、脳卒中は高血圧が大きな原因の一つとお話してきました。
高血圧の状態が続くと血管が傷つき、動脈硬化を進行させ、脳梗塞や脳出血のリスクを高めます。血管が硬くなると、血液がスムーズに流れにくくなり、脳に酸素や栄養が十分に届かなくなります。
そこで、毎日きちんと血圧を測り、適切な値にコントロールすることが、脳卒中の予防にとても大切です。
血圧コントロールには、大きく分けて次の4つの方法があります。
家庭での血圧測定の正しい方法
家庭での血圧測定は、病院で測る血圧よりも、リラックスした状態で測定できるため、より普段の血圧の状態を反映しやすいという利点があります。
また、家庭で毎日血圧を測ることで、血圧の変化にいち早く気づくことができ、脳卒中の早期発見・早期治療につながる可能性があります。正しい測定方法を身につけ、毎日の習慣にしましょう。
- 正しい姿勢: 楽な姿勢で座りましょう。背もたれのある椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばします。足を組まず、足の裏全体が床につくようにしましょう。腕はテーブルの上に置き、心臓と同じ高さにします。
- 適切な機器: 上腕式の自動血圧計を使用します。手首式や指式は、測定姿勢の影響を受けやすく、誤差が大きいため、家庭血圧測定には適していません。
- リラックス: 測定前は5分ほど安静にして、リラックスした状態で行います。深呼吸をする、好きな音楽を聴くなどして、気持ちを落ち着けましょう。測定中は、話したり、動いたり、テレビを見たりしないようにしましょう。
- 測定時間: 朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、薬を飲む前に測り、夜は寝る前に測ります。毎日同じ時間に測定することで、血圧の変動を正確に把握することができます。
- 記録: 測定値は、日付と時間とともに記録しておきましょう。血圧手帳やスマートフォンのアプリなどを活用すると便利です。記録した血圧値は、医師との診療の際に役立ちます。
食事療法による血圧管理:減塩、カリウム摂取
食事は、血圧コントロールに大きな影響を与えます。特に、塩分(ナトリウム)の摂りすぎは、体内に水分を溜め込み、血液量を増加させることで高血圧を招きます。
厚生労働省が推奨する1日の塩分摂取量の目標値は、男性7.5g未満、女性6.5g未満です。現在の食生活でどれくらい塩分を摂取しているかを確認し、目標値を意識してみましょう。
- 減塩のコツ:
- 加工食品、インスタント食品、外食は控えめにしましょう。これらは多くの塩分が含まれていることが多いです。
- 調理には、だし、香辛料、酢、柑橘類などを活用し、薄味に慣れていきましょう。
- 醤油やソースはかけすぎに注意し、減塩タイプの調味料を選ぶのも良いでしょう。
- カリウムを多く含む食品(野菜、果物、海藻、いも類、豆類など)は、体内の余分なナトリウムを排出する働きがあります。積極的に摂り入れましょう。ただし、腎臓病の方は、カリウムの摂取制限が必要な場合がありますので、医師に相談してください。
- アメリカ心臓協会が推奨するDASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)は、高血圧予防に効果的な食事です。野菜、果物、低脂肪乳製品、全粒穀物、魚、鶏肉、豆類などを中心とした食事で、塩分だけでなく、飽和脂肪酸やコレステロールも抑えることができます。
運動療法による血圧管理:有酸素運動、筋力トレーニング
適度な運動は、血圧を下げる効果があります。心臓や血管の機能を高め、血圧を調整する自律神経の働きを改善することで、血圧を下げる効果が期待できます。
無理のない範囲で、継続して行うことが大切です。自分の体力や体調に合わせて、無理なく続けられる運動を見つけましょう。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど、軽く息が弾む程度の運動を、1回30分以上、週に3回以上行うのが理想的です。
- 筋力トレーニング: スクワット、腕立て伏せなど、自分の体重を利用したトレーニングや、軽いダンベルを使ったトレーニングも効果的です。大きな筋肉を鍛えることで、基礎代謝が上がり、血圧を下げる効果が期待できます。週に2回程度行いましょう。
薬物療法による血圧管理:降圧剤の種類と効果・副作用
生活習慣の改善だけでは血圧が下がらない場合や、他の病気がある場合、あるいはすでに脳卒中を発症したことがある場合は、医師の指示に従って降圧剤を服用することがあります
。降圧剤にはさまざまな種類があり、それぞれ作用機序や効果、副作用が異なります。
- 降圧剤の種類: カルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、利尿薬、β遮断薬などがあります。これらの薬は、それぞれ異なるメカニズムで血圧を下げる働きがあります。
- 効果と副作用: 降圧剤は効果的に血圧を下げますが、人によっては副作用が現れることがあります。副作用の種類や程度は、薬の種類や個人差によって異なります。めまい、ふらつき、吐き気、頭痛、咳などが出ることがあります。医師から処方された薬の効果や副作用について、よく理解しておくことが大切です。
- 服薬の注意点: 自己判断で薬の服用を中止したり、量を変えたりすることは危険です。必ず医師の指示に従って服用しましょう。疑問点や不安なことがあれば、医師や薬剤師に相談しましょう。
まとめ

高血圧は脳卒中の大きな危険因子です。血管は高血圧によってダメージを受け、動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や脳出血のリスクを高めます。
高血圧と脳卒中の関係性について理解し、適切な血圧コントロールを行うことで、脳卒中のリスクを減らし、健康な生活を送ることができます。
高血圧は自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行していることもあります。
家庭での血圧測定、減塩やカリウム摂取を中心とした食事療法、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動療法、そして医師の指導による薬物療法などを通して、血圧を適切にコントロールすることが重要です。
日々の生活習慣の見直と定期的な血圧測定、健康診断が重要です。気になることがあれば医師に相談し、脳卒中という大きなリスクからご自身を守りましょう。
参考文献
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-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
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