2025.05.22

脳卒中をわかりやすく解説！脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の決定的な違い【医師監修】

突然ですが、もし明日、言葉が話せなくなったり、身体が麻痺したらどうしますか？

実は、こうした症状は「脳卒中」のサインかもしれません。

脳卒中には、血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、そして脳を覆う膜の間で出血するくも膜下出血の3種類があり、日本では年間約15万人が発症し、死亡原因の第4位となっています。

突然死のリスクや重い後遺症を残す可能性もある脳卒中。その種類や原因、症状、そして予防策まで、この記事で医師がわかりやすく詳しく解説します。

自分や家族を守るための大切な知識を、ぜひ身につけてください。

脳卒中の種類と原因、症状の違いを理解する３つのポイント
脳卒中の予防と治療、再発予防の３つのポイント
まとめ
参考文献

脳卒中の種類と原因、症状の違いを理解する３つのポイント

脳卒中　脳梗塞　脳出血　くも膜下出血　違い — Types of human brain stroke vector illustration

脳卒中は、脳の血管に突如として起こる異変によって、脳の機能が損なわれる病気です。

血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、そして脳を覆う膜の間で出血するくも膜下出血の３種類があります。

血管が詰まる脳梗塞
血管が破れる脳出血
脳を覆う膜の間で出血するくも膜下出血

これらはそれぞれ原因や症状、治療法が異なり、迅速な対応が求められます。

脳梗塞：血管が詰まることで起こる脳卒中

脳梗塞は、脳の血管が詰まることで、血液が供給されず、脳細胞が酸素や栄養不足に陥ってしまい、脳の機能が損なわれる病気です。

血管が詰まってしまう原因の多くは動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の壁が厚く硬くなって、血管が狭くなる状態を指します。高血圧、糖尿病、脂質異常症（コレステロールや中性脂肪が高い状態）、喫煙などが動脈硬化を進行させる危険因子です。

また、心臓でできた血の塊（血栓）が脳の血管に詰まることもあります。これは心房細動という不整脈がある場合に多く見られます。心房細動は、心臓の上にある心房が細かく震えるように動く不整脈で、心房の中で血液が滞りやすくなり、血栓ができやすくなります。この血栓が血流に乗って脳の血管に詰まると、脳梗塞を引き起こします。

最近の研究では、脳梗塞に対する血管内治療後、より集中的な血圧管理（収縮期血圧＜140 mmHg）を行うと、90日後の機能的独立性の達成率が低下する可能性が示唆されています。機能的独立性とは、日常生活動作をどの程度自立して行えるかを評価する指標です。この研究結果から、血管内治療後の血圧管理は、患者さんの状態に合わせて慎重に行う必要があると考えられます。

脳出血：血管が破れて起こる脳卒中

脳出血は、脳の血管が破れて脳内に血液が流れ出し、周囲の脳組織を圧迫することで脳の機能が損なわれる病気です。

高血圧が主な原因です。血管の壁が高い血圧によって圧迫され続けると、次第にもろくなり、最終的に破れてしまいます。また、脳の血管にできたコブ（脳動脈瘤）や、もつれ合った血管（脳動静脈奇形）が破裂して脳出血を起こすこともあります。

脳動脈瘤は、血管の一部が風船のように膨らんだ状態です。

脳動静脈奇形は、本来は毛細血管を介して徐々に流れる動脈と静脈の血液が、直接つながってしまい、動脈の高い圧力が静脈にかかり続ける状態です。

これらの異常は生まれつき持っている場合もありますが、多くは無症状のまま経過し、ある日突然破裂してくも膜下出血などの深刻な事態を引き起こすことがあります。

くも膜下出血：脳を覆う膜の間に出血が起こる脳卒中

くも膜下出血は、脳を覆っている3層の膜（軟膜・くも膜・硬膜）のうち、くも膜と軟膜の間の空間（くも膜下腔）に出血する病気です。

多くの場合、脳動脈瘤の破裂によって起こります。くも膜下出血は突然の激しい頭痛とともに発症することが多く、意識を失うこともあります。3人に1人が死亡し、3人に1人が後遺症が残るというデータがあるほど危険な病気です。

各脳卒中の主な症状と初期症状

脳卒中の症状は、血管が詰まる場所や出血する場所によって実に様々です。

脳卒中の種類	主な症状
脳梗塞	手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、物が二重に見える、視野が狭くなる、ふらつきなど
脳出血	激しい頭痛、嘔吐、意識消失、手足の麻痺、言語障害、視野障害など
くも膜下出血	ハンマーで殴られたような激しい頭痛、意識障害、嘔吐など

これらの症状は突然現れます。手足の麻痺や痺れ、ろれつが回らない、激しい頭痛など、少しでもおかしいと感じたら、すぐに救急車を呼びましょう。

脳卒中発症時の時間短縮が非常に重要であるかを意味する「Time is brain（時間は脳なり）」という言葉があるように、脳卒中は一刻も早い治療が重要です。

松本美衣

痛みの特徴
くも膜下出血の患者さんがよく言うのは「今まで経験したことのない激しい頭痛」という表現です。ある40代男性は「頭を金づちで殴られたような」と表現し、痛みのあまり救急車の中で嘔吐を繰り返していました。

一方、脳梗塞の患者さんは意外なことに「頭痛はあまりない」と言うことが多く、むしろ手足のしびれや脱力、言葉のもつれなどを主訴とします。

脳出血では、出血の場所や量によって痛みの程度が変わりますが、徐々に強くなる頭痛と吐き気を訴えることが特徴的です。

痛みの有無や性質は診断の大きな手がかりになります。

脳卒中の原因となる危険因子

脳卒中の危険因子は、大きく分けて2つあります。

一つは加齢や遺伝など、自分でコントロールできないものです。

もう一つは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足、ストレスなど、生活習慣の改善によってコントロールできるものです。

これらの危険因子を複数持っていると、脳卒中のリスクは加速度的に高まります。日頃からバランスの取れた食事、適度な運動、禁煙などを心がけ、健康診断を定期的に受けるようにしましょう。

アポリポ蛋白E（APOE）遺伝子は、脳卒中の発症リスクに関連する遺伝子の一つです。APOEにはいくつかの型があり、ε4と呼ばれる型を持つ人は脳卒中になりやすいことが知られています。

脳卒中の予防と治療、再発予防の３つのポイント

脳卒中は、ある日突然私たちの生活を一変させてしまう可能性のある、恐ろしい病気です。しかし、正しい知識を持ち、適切な行動をとることで、そのリスクを大きく減らすことができます。

この章では、脳卒中の予防、治療、そして再発予防について、３つのポイントに絞ってわかりやすく解説します。

脳卒中の予防：生活習慣の改善

脳卒中の予防において最も重要なのは、生活習慣の改善です。

高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は、動脈硬化を進行させ、脳卒中の大きな危険因子となります。

動脈硬化とは、血管の壁が厚く硬くなり、血管が狭くなってしまう状態です。まるで水道管が錆びて細くなってしまうように、血液の流れが悪くなり、脳に十分な酸素や栄養が供給されなくなってしまいます。

これらの生活習慣病を予防・改善するためには、日々の生活習慣の見直しが不可欠です。具体的には、以下の7つのポイントに気をつけましょう。

バランスの良い食事: 塩分、糖分、脂肪分の摂りすぎに注意し、野菜や果物を積極的に摂りましょう。1日の食塩摂取量は6g未満を目標にするのが理想的です。
適度な運動: ウォーキングや軽いジョギングなど、無理のない範囲で体を動かす習慣を身につけましょう。1日30分程度の運動を週に数回行うだけでも効果があります。
禁煙: タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。禁煙は脳卒中だけでなく、様々な病気の予防につながります。
節酒: 過度の飲酒は高血圧や脳出血のリスクを高めます。お酒は適量を守り、飲みすぎないように注意しましょう。
適正体重の維持: 肥満は生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、心臓にも負担をかけます。バランスの良い食事と適度な運動で、適正体重を維持しましょう。
定期的な健康診断: 生活習慣病は自覚症状がないまま進行することもあります。定期的な健康診断で早期発見・早期治療に努めましょう。
ストレスをため込まない: ストレスは交感神経を刺激し、血圧を上昇させる原因となります。リラックスする時間を作ったり、趣味を楽しんだりするなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。

アポリポ蛋白E（APOE）遺伝子は、脳卒中の発症リスクに関連する遺伝子の一つです。ε4と呼ばれる型を持つ人は、そうでない人と比べて脳卒中になりやすいことが知られています。遺伝的な要素はコントロールできませんが、生活習慣を改善することでリスクを軽減できます。

脳卒中の治療法：t-PA、血栓回収療法など

脳卒中の治療法は、その種類によって異なります。

脳梗塞: 発症4.5時間以内であれば、t-PA静注療法という血栓を溶かす薬を使った治療が行われます。

また、発症24時間以内であれば、カテーテルという細い管を使って血栓を取り除く血栓回収療法が適応となる場合があります。

しかし、遠位中程度血管閉塞を伴う脳梗塞の場合、血管内治療は機能予後を改善せず、症状を伴う頭蓋内出血発生率を高める可能性があるという研究結果も出ています。

脳出血: 血圧のコントロールが最も重要です。出血量が多い場合は、開頭手術が必要となることもあります。

くも膜下出血: 開頭クリッピング術や血管内コイル塞栓術など、動脈瘤の閉塞手術が行われます。

開頭クリッピング術は開頭手術で動脈瘤の根元をクリップで挟み、血管内コイル塞栓術はカテーテルを使って動脈瘤の中にコイルを詰めて、それぞれ血流を遮断する手術です。

脳卒中の後遺症とリハビリテーション

脳卒中の後遺症は、麻痺、言語障害、認知障害、嚥下障害など多岐に渡ります。後遺症の程度は脳卒中の種類や重症度、治療開始までの時間などによって大きく異なります。後遺症を最小限に抑え、日常生活への復帰を目指すためには、早期からのリハビリテーションが非常に重要です。

脳卒中の再発予防策

脳卒中は再発しやすい病気です。再発を防ぐためには、危険因子の管理、生活習慣の改善、服薬の継続、定期的な健康診断が重要です。

特に高血圧の管理は重要であり、アテローム性動脈硬化性心血管疾患患者において、コルヒチンという薬が虚血性脳卒中のリスクを低下させるという研究結果もあります。脳梗塞に対する血管内治療後の集中的な血圧管理（収縮期血圧＜140 mmHg）は、90日後の機能的自立度を低下させる可能性がある一方、死亡率や脳内出血発生率には影響を与えないという研究結果も出ています。

主治医の指示に従い、適切な血圧管理を行うことが大切です。