脳卒中後の人格変化は高次脳機能障害?症状と治療法を医師が解説

脳卒中 高次機能障害
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脳卒中後の人格の変化、もしかすると高次脳機能障害のサインかもしれません。

穏やかだった人が些細なことで怒りやすくなったり、几帳面だった人が身だしなみに無頓着になる、言葉をなかなか理解してもらえないなど、❝性格が変わった❞と感じたことはありませんか?実はこれ、高次脳機能障害の症状の一つである可能性が高いのです。

高次脳機能障害とは、脳卒中など脳の損傷により、記憶・注意・言語・思考・感情・行動といった高度な精神機能に障害が生じること。脳卒中後、ご本人やご家族が以前との違いに戸惑うケースは少なくありません。

この記事では、高次脳機能障害の種類や具体的な症状例、診断方法、治療法、そしてご家族がどのように支えていけば良いのかを詳しく解説します。

脳卒中後の変化に不安を抱えている方、ぜひご一読ください。

脳卒中後の性格変化、もしかして高次脳機能障害?原因と症状を詳しく解説

脳卒中を経験された後、ご本人やご家族が「以前とは性格が変わったようだ」と感じることがあります。例えば、穏やかだった方が些細なことで怒りやすくなったり、几帳面だった方が身だしなみに無頓着になったりなど、変化の内容はさまざまです。こうした変化は、高次脳機能障害のサインかもしれません。

脳卒中後の性格変化、もしかして高次脳機能障害?原因と症状を詳しく解説
脳卒中後の性格変化、もしかして高次脳機能障害?原因と症状を詳しく解説

脳卒中後の性格変化と高次脳機能障害の関係性

脳卒中後の性格変化は、高次脳機能障害の症状の一つである可能性が高いです。

高次脳機能障害とは、脳卒中などによって脳の一部が損傷を受け、記憶、注意、言語、思考、感情、行動といった高度な精神機能に障害が生じることです。

性格変化は、特に感情や行動をコントロールする機能の障害と関連しています。脳卒中によって脳の特定の領域、例えば前頭葉が損傷すると、感情の抑制や適切な行動の選択が困難になることがあります。

高次脳機能障害の種類と具体的な症状例

高次脳機能障害は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、感情障害など、さまざまな症状が現れます。これらの障害は単独で現れることも、複数組み合わさって現れることもあります。

  • 記憶障害: 新しいことを覚えられない、覚えたことをすぐに忘れてしまう、昔の記憶が曖昧になるといった症状です。例えば、朝ごはんに何を食べたか思い出せない、約束を忘れてしまう、昔の出来事を実際とは異なるように記憶している、といったことが挙げられます。
  • 注意障害: 気が散りやすい、集中力が持続しない、同時に複数のことに注意を向けられないといった症状です。例えば、テレビを見ながら新聞を読むことが難しい、話しかけられてもすぐに他のことに気を取られてしまう、といったことが挙げられます。
  • 遂行機能障害: 計画を立てて実行することが難しい、複数の作業を同時に行えない、状況に合わせて行動を柔軟に変えられないといった症状です。例えば、料理の手順が分からなくなる、買い物リストを忘れて必要なものが買えない、といったことが挙げられます。
  • 感情障害: 感情のコントロールが難しくなる、些細なことでイライラしやすくなる、急に泣き出す、感情の起伏が激しくなるといった症状です。以前は落ち着いていた方が感情的になりやすくなったり、逆に感情が鈍麻して無関心になったりするなど、変化は多様です。

脳卒中の言語障害については以下でも詳しく解説しています。併せてお読みください。
脳卒中の言語障害はどこまで治る?医師が語る回復段階と目標設定

記憶障害:新しいことを覚えられない、昔の記憶が曖昧になる

脳卒中後の記憶障害は、脳の海馬や側頭葉といった記憶に関わる部分が損傷することで起こります。高齢者の場合、認知症と合併している場合もあるので注意が必要です。

物忘れが頻繁になった、新しいことを覚えられない、昔の記憶が曖昧になっていると感じたら、医療機関への受診をお勧めします。

注意障害:気が散りやすい、集中力が続かない

脳卒中後の注意障害は、周囲の音や光に過敏になり、気が散りやすくなることで、集中力が持続しにくくなります。読書や会話、テレビ視聴など、日常生活のさまざまな場面で支障をきたすことがあります。また、同時に複数の作業を行うのが困難になることもあります。

遂行機能障害:計画を立てられない、複数の作業を同時に行えない

遂行機能障害は、前頭葉の損傷と関連が深い障害です。物事を順序立てて考え、計画的に実行する能力が低下します。

例えば、料理や掃除、着替えなどの手順が分からなくなったり、仕事や家事の段取りができなくなったりといった問題が生じます。

また、状況に合わせて適切な判断や行動をすることが難しくなることもあります。

感情障害:感情のコントロールが難しくなる、イライラしやすくなる

脳卒中後の感情障害は、感情をコントロールする脳の部位の損傷や、脳卒中後の生活の変化によるストレスなどが原因で起こると考えられています。

感情が不安定になり、些細なことでイライラしたり、急に泣き出したり、感情の起伏が激しくなるといった症状が現れます。

また、近年、血管性認知症の病態生理において一酸化窒素が重要な因子であることが明らかになっています。一酸化窒素は、血管拡張作用や神経伝達物質としての役割を持つ物質で、そのレベルの低下が血管性認知症における認知機能障害に関与している可能性が示唆されています。

松本美衣
松本美衣

失認症の複雑さ
右脳梗塞後の70代男性が「左手が自分の手だと思えない」と奇妙な訴えをしました。これは「身体失認」という症状で、自分の体の一部を認識できなくなる高次機能障害です。麻痺はないのに、左手を使わずに右手だけで日常動作を行おうとするため、非常に不便な状態でした。鏡を使って左手を意識的に見る訓練や、左手を積極的に使う課題を継続することで、徐々に改善していきました。
自分の体が分からなくなるなんて、不思議な病気ですね」と患者さんも驚かれていましたが、適切なリハビリにより改善可能な症状です。

脳卒中後の高次脳機能障害、適切な治療とリハビリで回復を目指そう

脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に障害が起こる病気です。後遺症として、体の麻痺などがよく知られていますが、目に見えにくい変化に戸惑う方も少なくありません。

物忘れがひどくなった、集中力が続かない、感情のコントロールが難しくなった、以前とは性格が変わったようだ、などと感じたら、それは「高次脳機能障害」のサインかもしれません。

高次脳機能障害とは、脳卒中など脳の損傷によって、記憶、注意、言語、思考、感情、行動といった高度な精神機能に障害が生じることです。ご本人だけでなく、ご家族も不安を抱えていることと思います。

この見出しでは、高次脳機能障害の診断方法や治療法、回復の見込み、そしてご家族がどのように支えていけば良いのかについて、詳しく解説します。

脳卒中後の高次脳機能障害、適切な治療とリハビリで回復を目指そう
脳卒中後の高次脳機能障害、適切な治療とリハビリで回復を目指そう

高次脳機能障害の診断方法:問診、神経心理学的検査など

高次脳機能障害の診断は、複数の方法を組み合わせて行います。

まず、問診を行ないます。医師が患者さんご本人やご家族から、脳卒中後の日常生活での困りごとや変化について詳しくお話を伺います。

次に、神経心理学的検査を行います。これは、様々な課題を通して、記憶力、注意力、判断力などの認知機能を客観的に評価する検査です。例えば、図形を記憶して描く検査や、計算問題を解く検査、積み木を指示通りに並べる検査などがあります。

問診と神経心理学的検査の結果を総合的に判断し、高次脳機能障害の有無や種類、重症度を診断します。近年、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などの精神疾患と認知機能障害の関連性も指摘されています。そのため、必要に応じてこれらの評価も行います。

高次脳機能障害のリハビリテーション:認知リハビリテーション、作業療法など

高次脳機能障害のリハビリテーションには、主に認知リハビリテーションと作業療法があります。

認知リハビリテーションは、低下した認知機能を改善するための訓練です。例えば、記憶力を高めるためのトレーニングとして、トランプを使った神経衰弱や、日常生活で使う単語を覚える練習などを行います。また、注意力を維持するための練習として、一定時間、特定の音に反応する訓練などを行います。

作業療法は、日常生活で必要な動作や活動を練習することで、社会生活への適応を支援するものです。料理や洗濯、買い物などの練習を通して、自立した生活を目指します。

リハビリテーションの内容は、患者さん一人ひとりの症状や状態に合わせて、専門のスタッフが個別に計画を立てます。

薬物療法:抗うつ薬、抗不安薬など

高次脳機能障害の症状によっては、薬物療法が用いられることもあります。

例えば、気分が落ち込んだり、不安が強かったりする場合は、抗うつ薬や抗不安薬を処方することがあります。これらの薬は、症状を和らげ、リハビリテーションの効果を高めることを目的として使用されます。薬の種類や量は、患者さんの状態に合わせて医師が慎重に決定します。

感情障害は、脳卒中後の生活の変化によるストレスも原因の一つと考えられています。2025年に発表された研究では、急性冠症候群(ACS:心臓の血管が詰まる病気)の患者さんが心臓のカテーテル治療(PCI)を受けた後、約1%で脳卒中を発症したと報告されています。この研究は、心血管疾患と脳卒中の関連性を示唆しており、脳卒中後の感情障害にも同様のメカニズムが関与している可能性があります。

脳卒中後の高次脳機能障害の回復の見込みと予後

高次脳機能障害の回復の見込みは、脳卒中の重症度や障害を受けた脳の部位、リハビリテーションへの取り組み方などによって大きく異なります。一般的に、発症から半年から1年の間に集中的なリハビリテーションを行うことで、症状の改善が見られることが多いです。

脳の神経細胞は、他の細胞と異なり再生しないと考えられてきましたが、近年、脳には神経細胞を新しく作り出す能力があるという研究報告もあります。しかし、後遺症が残る場合もありますので、焦らずに、長期的な視点でリハビリテーションを継続していくことが重要です。

専門病院・クリニックの探し方:日本高次脳機能障害学会認定施設など

高次脳機能障害の専門的な治療を受けたい場合は、日本高次脳機能障害学会(参照:https://www.higherbrain.or.jp/)のウェブサイトなどで、認定施設の情報を検索することができます。

これらの施設では、専門の医師やリハビリテーションスタッフがチームを組んで、患者さんに最適な治療を提供しています。ぜひ確認してみてください。

家族ができること:精神的なサポート、日常生活の援助など

高次脳機能障害の患者さんを支える上で、ご家族の役割は非常に重要です。

患者さんは、記憶障害や感情のコントロールが難しくなるなど、様々な困難を抱えています。ご家族は、患者さんの気持ちに寄り添い、精神的なサポートをすることが大切です。

また、日常生活での援助も必要になります。例えば、家事や身の回りの世話、金銭管理などを手伝う必要があるかもしれません。患者さんと一緒にリハビリテーションに取り組むことも、回復を促進する上で重要です。

2025年に発表された別の研究では、PTSDが認知機能障害と関連していることが示唆されています。患者さんの精神的なケアは、認知機能の回復にも良い影響を与える可能性があります。

まとめ

脳卒中 高次機能障害

脳卒中後の性格や行動の変化は、高次脳機能障害の可能性があります。高次脳機能障害は、脳卒中によって脳の一部が損傷し、記憶力や注意力、感情のコントロールなどに影響が出る障害です。

患者さんご自身やご家族が「以前と様子が違う」と感じたら、まずは医療機関に相談してみましょう。問診や検査を通して診断を行い、一人ひとりに合ったリハビリテーションや治療が始まります。

高次脳機能障害は、適切な治療とリハビリテーションによって回復を目指せる病気です。周囲の理解と適切なサポート環境があれば、患者さんも家族も豊かな生活を送ることができます。焦らず、ご本人とご家族、そして医療スタッフが協力しながら、より良い生活を取り戻していきましょう。

参考文献

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  2. Qanitha A, Alkatiri AH, Qalby N, Soraya GV, Alatsari MA, Larassaphira NP, Hanifah R, Kabo P, Amir M. “Determinants of stroke following percutaneous coronary intervention in patients with acute coronary syndrome: a systematic review and meta-analysis.” Annals of medicine 57, no. 1 (2025): 2506481.
  3. Yang Y, Ma K, Li S, Xiong T. “Multifaceted role of nitric oxide in vascular dementia.” Medical gas research 15, no. 4 (2025): 496-506.

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