突然襲ってくる脳卒中。人生が一変するほどの大きな出来事だからこそ、もしもの時に備えて脳卒中の知識を身につけておくことは大切です。
脳卒中は種類や症状の重さ、個々の状況によって治療期間や入院期間が大きく異なります。
発症から治療開始までの時間、そして適切な治療を受けることが回復へのカギとなります。 脳卒中は急性期の治療が重要な疾患で、発症から治療開始までの時間が予後を大きく左右します。急性期を過ぎると、麻痺などの障害に対するリハビリを専門施設で行う回復期に入ります。
リハビリの効果を最大化し、将来的に自宅での生活に戻るためには、個々の患者のリスクを評価しながら適切な治療計画を立てることが重要です。
この記事では、脳卒中の種類別の治療期間や入院期間の目安、治療に影響する要因、入院生活における知っておきたいポイントなどを専門医が詳しく解説します。
150万人以上が罹患する脳卒中。いざという時に慌てないために、脳卒中の全体像を理解し、治療期間や入院生活への不安を解消しましょう。
目次
脳卒中の治療期間:種類別に見る入院期間と回復までの道のり
脳卒中は、ある日突然私たちの生活を一変させてしまう可能性のある病気です。治療期間や入院期間については、脳卒中の種類や症状の重さ、そして患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なってきます。だからこそ、脳卒中の種類別の治療期間と入院期間の目安、そして治療期間に影響する要因について、正しく理解しておくことが大切です。

脳梗塞の治療期間と入院期間
脳梗塞は、脳の血管が詰まって、血液が流れなくなる病気です。この病気は、血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、くも膜下出血の3種類に大きく分けられ、それぞれ治療法も変わってきます。
血管が詰まる原因としては、動脈硬化によって血管が狭くなったり、心臓などにできた血の塊が脳の血管に詰まったりすることが考えられます。
治療の中心となるのは、詰まった血管を再び開通させることです。
発症から4.5時間以内であれば、tPA(血栓溶解療法)という薬を使って血栓を溶かす治療が行われます。tPAは、点滴で投与される薬で、血栓を溶かして血管を再開通させる効果があります。より早く治療を開始できればできるほど、その効果は高まります。
tPAによる治療ができない場合や、tPAを行っても効果が不十分な場合は、血管内治療(血栓回収術)が検討されます。これは、カテーテルという細い管を足の付け根の血管から挿入し、詰まっている血管まで進めて、血栓を直接取り除く治療法です。血管内治療は、tPAよりも治療可能な時間が長く、発症から6時間以上経過していても有効な場合があります。
脳梗塞の入院期間は、症状の重さによって大きく異なります。
軽症であれば、1週間から10日程度で退院できる場合もありますが、中等症以上になると、数週間から数ヶ月かかる場合もあります。
後遺症が残る場合は、回復期リハビリテーション病院への転院が必要になる場合もあります。退院後も、再発予防のための通院が必要になります。
脳出血の治療期間と入院期間
脳出血は、脳の血管が破れて出血する病気です。高血圧が主な原因となることが多く、血管がもろくなって破れやすくなっていることが背景にあります。
治療は、血圧をコントロールしながら、出血を止めることを目指します。
出血量が少ない軽症の場合は、2週間程度で退院できる場合もありますが、出血量が多い場合や、意識障害などの症状が重い場合は、数週間から数ヶ月かかる場合もあります。
外科手術が必要なケースでは、入院期間がさらに長引く可能性があります。退院後も、再発予防のための通院が必要になります。
OPTIMAL-BP無作為化臨床試験では、血管内血栓除去術後の積極的な血圧降下は、3ヶ月後の機能的独立性の可能性を低くすることが示唆されました。
くも膜下出血の治療期間と入院期間
くも膜下出血は、脳を覆う「くも膜」の下に出血する病気です。脳動脈瘤という血管のこぶが破裂することが主な原因です。「くも膜」とは、脳を包む3層の膜(軟膜、くも膜、硬膜)のうち、真ん中の層のことです。
治療は、出血の原因となっている動脈瘤を、クリッピング術またはコイリング術で閉塞させます。
クリッピング術は開頭手術で動脈瘤の根元をクリップで挟んで、血流を遮断する方法です。コイリング術は、足の付け根の血管からカテーテルという細い管を通して、動脈瘤の中にコイルを詰めて、血流を遮断する方法です。
入院期間は、一般的に3週間から4週間程度かかります。
また、脳血管攣縮(血管が痙攣して細くなること)や水頭症(脳の中の水分が増えすぎること)といった合併症が起こる可能性があり、その場合は入院期間がさらに長引く可能性があります。退院後も、定期的な経過観察が必要になります。
治療期間に影響する要因:年齢、重症度、合併症など
脳卒中の治療期間は、脳卒中の種類だけでなく、年齢、重症度、合併症の有無など、さまざまな要因によって影響を受けます。高齢者の場合、若い人に比べて回復に時間がかかる傾向があります。
また、脳卒中の重症度が高いほど、治療期間も長くなります。さらに、糖尿病や高血圧などの合併症がある場合も、治療期間が長くなる可能性があります。
入院中のリハビリテーション内容と開始時期
脳卒中の後遺症を最小限に抑えるためには、早期からのリハビリテーションが重要です。リハビリテーションは、発症後できるだけ早く開始することが望ましいです。
入院中のリハビリテーションの内容は、患者さんの状態に合わせて、理学療法、作業療法、言語療法など、さまざまな種類があります。
理学療法では、寝返りや起き上がり、歩行などの基本的な動作の練習を行います。作業療法では、食事や着替え、トイレなどの日常生活動作の練習を行います。言語療法では、話すことや理解することの練習を行います。耳鍼療法は脳卒中後の運動機能の改善に有効である可能性が示唆されています。

慢性期の新たな発見
脳出血から2年経った70代女性が、「最近、料理の時に左手も使えるようになった」と報告してくれました。これまで右手だけで家事をしていたのが、自然と両手を使うようになったそうです。慢性期に入っても脳の可塑性(柔軟性)により、新しい神経回路が形成されることがあります。
「2年経っても脳は変化し続けている」という事実に、患者さんも私も驚きました。
慢性期の患者さんには「諦めずに日常生活を積極的に送ることが、最高のリハビリになる」とお伝えしています。
脳卒中後の入院生活:知っておきたいポイントとQ&A
脳卒中は、突然発症し、入院が必要となる場合が多い病気です。入院生活は、慣れない環境や治療への不安、今後の生活への見通しなど、多くの心配事が頭をよぎる時期でもあります。
この見出しでは、脳卒中で入院することになった際に、患者さんやご家族が知っておきたいポイントをQ&A形式でわかりやすく解説します。
どのような検査や治療が行われるのか、入院生活はどのようなものなのか、費用面はどうなるのか、退院後の生活はどうすればいいのかなど、気になる点を一つずつ確認していきましょう。安心して入院生活を送るためにも、ぜひご一読ください。

入院生活の流れ:検査、治療、リハビリテーション
Q1. 入院したら、まず何が行われますか?
A. 入院直後は、医師による問診、診察、そして様々な検査が行われます。これは、脳卒中の種類(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、発症時刻、症状の重さ、そして現在の状態を正確に把握するためにとても大切な手順です。救急隊からの情報提供も重要な判断材料となります。
具体的には、血液検査、心電図検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、脳血管造影検査などが行われます。これらの検査結果を総合的に判断し、患者さん一人ひとりに最適な治療方針が決定されます。
検査についての詳しい内容や費用は以下でも詳しく解説しています。
▶【医師監修】脳卒中の治療について|検査から手術費用まで徹底解説
Dixonらの研究では、救急車サービスにおける脳卒中に関連した無作為化比較介入を調査しています。救急車サービスへの連絡時の脳卒中の識別、脳卒中への優先ディスパッチ、現場評価および臨床介入、包括的脳卒中センターへの直接紹介、現場での確定的な治療提供など、救急車サービスのすべての接点で介入が明らかになりました。救急車サービスの現場介入、病院への搬送、入院後の治療開始まで、それぞれの段階で迅速な対応が求められます。
Q2. 脳卒中の治療にはどのようなものがありますか?
A. 脳卒中の治療法は、種類や症状によって異なります。大きく分けて、薬物療法、手術療法、リハビリテーションがあります。
薬物療法では、血栓を溶かす薬や血圧を下げる薬などが用いられます。手術療法には、血栓を取り除く手術や、出血を止める手術などがあります。リハビリテーションは、後遺症を軽減し、日常生活の自立を支援するために、理学療法、作業療法、言語療法など、様々な種類があります。
Kurianらの研究では、神経筋電気刺激(NMES)が集中治療室における筋力低下の予防と管理に有効である可能性が示唆されています。
Q3. リハビリテーションはいつから始まりますか?
A. 脳卒中の後遺症を最小限に抑えるためには、早期からのリハビリテーションが重要です。患者さんの状態が安定しだい、できるだけ早く開始します。
病室の種類と設備:一般病棟、ICU、回復期リハビリテーション病棟
Q4. どのような病室がありますか?
A. 病室の種類は、主に一般病棟、ICU(集中治療室)、回復期リハビリテーション病棟の3種類があります。
症状が安定している患者さんは一般病棟に入院します。重症の患者さんは、ICUで集中的な治療と管理を受けます。ICUには、人工呼吸器や様々なモニターなどの設備が整っています。状態が安定し、集中的なリハビリテーションが必要な患者さんは、回復期リハビリテーション病棟に転院します。
入院中の費用:医療費、生活費、補助制度
Q5. 入院費用はどのくらいかかりますか?
A. 入院費用は、医療費と生活費に分けられます。医療費は健康保険が適用されますが、自己負担額は年齢や所得によって異なります。
生活費には、食事代、病衣代などが含まれます。これらの費用を負担するのが難しい場合は、高額療養費制度や傷病手当金などの公的な補助制度が利用できる場合があります。病院の相談窓口や市区町村の窓口に相談してみましょう。
面会時間と持ち物:必需品、あると便利な物
Q6. 何を持っていけば良いですか?
A. 入院生活に必要な持ち物は、病院から案内があります。必需品としては、パジャマ、下着、洗面用具、タオルなどがあります。その他、あると便利な物としては、スリッパ、イヤホン、読書用の本や雑誌、筆記用具などがあります。
持ち物はコンパクトにまとめ、持ち込みやすい鞄に入れておきましょう。
退院後の生活:社会復帰、介護サービス、再発予防
Q7. 退院後はどのような生活になりますか?
A. 退院後の生活は、脳卒中の後遺症の程度によって大きく異なります。後遺症が軽度であれば、社会復帰を目指せる場合もあります。後遺症が重度の場合、介護サービスが必要になることもあります。
いずれの場合も、再発予防のために、生活習慣の改善や服薬管理が重要です。
退院後の生活については、医師や医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなどに相談し、必要な支援を受けながら、より良い生活を目指しましょう。
まとめ

脳卒中の入院期間は、種類や重症度によって異なり、数週間から数ヶ月かかる場合もあります。軽症の脳梗塞であれば1週間から10日程度、重症の場合は数ヶ月かかることもあります。脳出血も同様に、軽症であれば2週間程度、重症の場合は数ヶ月かかることもあります。くも膜下出血は、一般的に3週間から4週間程度の入院期間が必要です。
入院中は、医師の指示に従って検査や治療を受け、早期からリハビリテーションを開始することが大切です。リハビリテーションは、理学療法、作業療法、言語療法などがあり、患者さんの状態に合わせて行われます。
退院後の生活は、後遺症の程度によって異なりますが、社会復帰を目指す場合も、介護サービスが必要な場合もあります。いずれの場合も、再発予防のために生活習慣の改善や服薬管理を行い、医師や医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなどに相談しながら、より良い生活を目指しましょう。
参考文献
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-情報提供医師
松本 和樹 Kazuki Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
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