手足のしびれ、あなたは大丈夫?長時間同じ姿勢でいたり、冷えで起こることもありますが、実は恐ろしい脳卒中のサインかもしれません。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりする病気で、突然死のリスクも潜んでいます。日本では年間約15万人が発症し、寝たきりになる方も少なくありません。高齢の方や生活習慣病をお持ちの方は特に注意が必要です。
この記事では、脳卒中のしびれの特徴、他の病気との見分け方、そして緊急時の対処法を分かりやすく解説します。
まさか自分が…と思っていませんか? 実は、急性冠症候群という心臓の治療後に約1%が脳卒中を発症するというデータもあります。心臓の治療後でも油断は禁物です。
手足のしびれをただの疲れと安易に考えて放置すると、取り返しのつかない事態になることも。この記事で脳卒中の知識を深め、あなたと大切な家族の命を守りましょう。
目次
脳卒中のしびれの見分け方5つのポイントと対処法

手足のしびれは、日常生活で誰もが経験するありふれた症状です。長時間同じ姿勢でいたり、体が冷えたりすることで起こることも少なくありません。しかし、手足のしびれは脳卒中の初期症状である可能性もあるため、注意が必要です。
脳卒中は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血の総称で、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳に血液が送られなくなる病気です。手足のしびれ以外にも様々な症状が現れるため、注意深く観察することが重要です。
高齢の方や、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病をお持ちの方は、特に脳卒中のリスクが高いと言われています。ご自身やご家族がこれらのリスク因子に該当する場合は、より一層注意が必要で
ここでは、脳卒中のしびれの特徴と緊急時の対処法について、具体的な症例を交えながら分かりやすく説明します。
片側の手足にしびれが出る
脳卒中によるしびれは、多くの場合、体の右側だけ、あるいは左側だけに現れます。
脳は左右に分かれており、それぞれの半球が体の反対側を支配しています。そのため、脳の右側に異常が発生すると左半身に、左側に異常が発生すると右半身にしびれが出ることが多いです。
もちろん、両側の手足にしびれが出る場合もありますが、片側だけに症状が現れる場合は脳卒中の可能性を高く疑うべきです。もし、しびれと共に力が入りにくい、感覚が鈍いなどの症状があれば、さらに注意が必要です。
顔の半分がしびれる、ゆがむ
脳卒中になると、顔の半分だけがしびれたり、ゆがんで見えることがあります。これは、顔の筋肉を動かす神経が脳卒中の影響を受けているサインです。例えば、片方の口角が下がったり、目が閉じにくくなったりするなどの症状が現れます。
顔のしびれやゆがみは、片側の手足のしびれと同時に現れることも多く、脳卒中の重要なサインです。笑った時に顔の左右差が目立つ、片方のまぶたが下がっているなどの異常に気付いたら、すぐに医療機関を受診しましょう。
ろれつが回らない、言葉が出てこない
脳卒中では、言葉を発したり理解したりする脳の領域が損傷を受けることで、ろれつが回らなくなったり、言葉が出てこなくなったりすることがあります。例えば、「今日は良い天気ですね」という簡単な言葉が出てこなかったり、「りんご」を「ごんり」のように言い間違えたりすることがあります。
このような症状は、周囲の人も異変に気付きやすいサインです。もし、ご家族が急にろれつが回らなくなったり、言葉が出てこなくなったりした場合は、一刻も早く救急車を呼びましょう。
急にめまいがする、ふらつく
脳卒中によって、平衡感覚を司る脳の領域が影響を受けると、急にめまいがしたり、ふらついたりすることがあります。これは、脳への血流障害によって、体のバランスを保つ機能が低下するためです。
めまいやふらつきは、他の病気でも起こりうる症状ですが、脳卒中の場合は、他の症状、例えば片側のしびれや言語障害などと同時に起こることが多いです。また、回転性のめまい、つまり周囲がぐるぐる回るような感覚を伴うこともあります。
激しい頭痛がする
脳卒中、特に「くも膜下出血」と呼ばれるタイプの脳卒中では、突然の激しい頭痛が起こることがあります。「ハンマーで頭を殴られたような」と表現されるほどの激痛が特徴です。
くも膜下出血は、脳の表面にある血管が破れて出血する病気です。激しい頭痛と共に、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。このような症状が現れたら、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。
緊急時の対処法
脳卒中の疑いがある場合は、ためらわずに救急車を呼びましょう。脳卒中は発症から治療開始までの時間が非常に重要です。迅速な治療が、後遺症を最小限に抑える鍵となります。
救急車を待つ間は、患者さんを安全な場所に寝かせ、楽な姿勢を保たせてください。吐き気がある場合は、顔を横に向けて、吐瀉物が気道に詰まらないように注意しましょう。
急性冠症候群(ACS)の患者さんが経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた後、約1%が脳卒中を発症するという研究結果も報告されています。ACSとは、心臓の血管が詰まりかけている状態のことで、PCIはカテーテルを使って血管を広げる治療法です。この研究は、一見関係のない心臓の治療が脳卒中のリスクを高める可能性を示唆しており、医療の現場では常に脳卒中のリスクを念頭に置いた対応が必要であることを改めて示しています。
脳卒中のしびれと他の病気のしびれの違い

手足のしびれは、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。長時間同じ姿勢でいたり、寒さで血行が悪くなったりすることで起こることも少なくありません。
しかし、手足のしびれは、脳卒中の初期症状である可能性もあるため、注意が必要です。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳に血液が送られなくなり、脳の機能が損なわれる病気です。手足のしびれ以外にも様々な症状が現れるため、注意深く観察することが重要です。
では、脳卒中とそれ以外のしびれの違いにみられる特徴は、どのようなものなのでしょうか?
今回は、脳卒中のしびれの特徴と、その他の病気で起こるしびれのそれぞれ違いについてご説明します。
脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、背骨の中を通る脊髄神経の通り道である脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されることで、主に腰や足にしびれや痛み、脱力感などが現れる病気です。歩行していると症状が悪化し、少し休むと回復する「間欠性跛行」という特徴的な症状が現れることもあります。
脳卒中では、体の片側だけに症状が現れることが多いですが、脊柱管狭窄症の症状は両足に現れることが多いという違いがあります。また、前かがみになると脊柱管が広がり神経への圧迫が軽減されるため、症状が楽になる傾向があります。
手根管症候群
手根管症候群は、手首にある手根管というトンネルの中を通る正中神経が圧迫されることで、手の親指、人差し指、中指にしびれや痛み、感覚の低下などが現れる病気です。
脳卒中によるしびれは片側の手足に起こることが多いですが、手根管症候群のしびれは両手に現れることもあります。また、手根管症候群では、症状は夜間や明け方に悪化しやすく、手を振ったり、マッサージすることで軽減することがあります。
坐骨神経痛
坐骨神経痛は、腰から足にかけて伸びている坐骨神経が圧迫されたり、炎症を起こしたりすることで、お尻や太もも、ふくらはぎ、足にかけて痛みやしびれが生じる病気です。
脳卒中では顔面もしびれることがありますが、坐骨神経痛では顔面のしびれは起こりません。また、坐骨神経痛の痛みやしびれは、咳やくしゃみをしたり、長時間同じ姿勢でいたりすることで悪化することがあります。
糖尿病性神経障害
糖尿病性神経障害は、高血糖の状態が続くことで、全身の神経が障害されて、さまざまな症状を引き起こす病気です。しびれもその症状の一つで、手足の先端、特に足先から左右対称に現れることが多いです。
脳卒中では片側のしびれが特徴的ですが、糖尿病性神経障害のしびれは両側に現れる点が異なります。また、糖尿病性神経障害では、しびれの他に、痛み、灼熱感、冷え感、感覚の異常なども現れることがあります。
多発性硬化症
多発性硬化症は、脳や脊髄などの中枢神経に炎症が起こり、神経の働きが阻害されることで、さまざまな神経症状が現れる病気です。しびれもその症状の一つで、手足や顔、体幹など、体のどこにでも現れる可能性があります。
脳卒中のしびれは比較的急に現れますが、多発性硬化症のしびれは、徐々に現れたり、一時的に改善したり、再発したりすることもあります。また、多発性硬化症では、しびれの他に、視力障害、運動麻痺、言語障害、排尿障害など、さまざまな症状が現れることがあります。
手足のしびれを感じたら、まずはどの病気の可能性があるのかを冷静に考えてみましょう。そして、少しでも脳卒中の疑いがある場合は、ためらわずに医療機関を受診することが大切です。

両側性しびれの特殊なケース
「両手がしびれる」という症状で受診された55歳男性は、一般的には糖尿病性神経症や頸椎疾患を疑いますが、詳しく調べると軽い言語障害も伴っていました。
MRI検査で両側の脳に多発性の小梗塞が見つかり、「多発性ラクナ梗塞」と診断しました。
通常、脳卒中は片側症状が特徴ですが、両側の脳に同時に問題が起きると両側のしびれとして現れることがあります。
今回のケースのように「両側だから脳ではない」という先入観を持たず、総合的な症状評価が重要だと学んだ症例でした。
まとめ

手足のしびれは、誰しも経験する症状ですが、脳卒中の初期症状である可能性も忘れてはいけません。片側の手足のしびれ、顔のしびれやゆがみ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、急なめまいやふらつき、激しい頭痛などは、脳卒中のサインかもしれません。
これらの症状に気付いたら、すぐに救急車を呼びましょう。迅速な対応が、後遺症を最小限に抑える鍵となります。
また、手足のしびれは他の病気の可能性もあります。脊柱管狭窄症、手根管症候群、坐骨神経痛、糖尿病性神経障害、多発性硬化症なども、しびれを引き起こすことがあります。
自己判断せずに、気になる症状があれば、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。ご自身の体と向き合い、健康を守ることが大切です。
参考文献

-情報提供医師
松本 和樹 Kazuki Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
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