【脳卒中の急性期】治療は時間との勝負!医師が解説

脳卒中 急性期 治療
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

脳卒中は、突然襲ってくる恐ろしい病気。血管が詰まったり破れたりすることで、脳に血液が供給されなくなり、深刻なダメージを与えます。

実は、脳卒中は「時間との勝負」と言われるほど、迅速な対応が求められる病気です。

発症直後から症状が安定するまでの「急性期」の対応が、その後の経過を大きく左右します。まさに山火事の初期消火のように、一刻も早い適切な治療が、脳へのダメージを最小限に抑え、後遺症を軽減する鍵となります。

この記事では、脳卒中の急性期における緊急時の対応、そして3つの主要な治療法(t-PA療法、血栓回収療法、開頭クリッピング術)について詳しく解説します。

さらに、急性期のリハビリテーションや社会復帰に向けたステップ、そしてQOL向上のための継続的なリハビリテーションについてもご紹介します。

脳卒中は誰にでも起こりうる身近な病気です。いざという時のために、正しい知識を身につけて備えましょう。

脳卒中の急性期とは

脳卒中 急性期 治療

脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に血液が供給されなくなる病気です。血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、脳の表面の血管が破れるくも膜下出血の3種類があります。

これらの脳卒中において、発症直後から症状が比較的安定するまでの期間を「急性期」と呼びます。この急性期は、その後の経過を大きく左右する極めて重要な時期です。

例えるなら、山火事が発生した直後の状態です。一刻も早く消火活動に取り掛からなければ、燃え広がり被害が拡大してしまいます。脳卒中も同様に、発症直後から適切な治療を開始することで、脳へのダメージを最小限に抑え、後遺症を軽減できる可能性が高まります。

脳梗塞の急性期はいつまでのこと?

脳梗塞の急性期は、一般的には発症から約1週間と言われています。しかし、これはあくまで目安であり、実際には症状の重さや合併症の有無、詰まった血管の場所や大きさ、そして治療開始までの時間など、様々な要因によって個人差があります。場合によっては数週間以上に及ぶこともあります。

急性期の長さが変わる要因の一つとして、詰まった血管の場所が挙げられます。脳のどの部分が損傷を受けたかによって、症状の種類や重さが異なります。また、血管が詰まっている時間が長ければ長いほど、脳細胞へのダメージも大きくなります。そのため、発症から治療開始までの時間が短いほど、予後が良好になる可能性が高まります。

さらに、患者さんの年齢や持病の有無も急性期の長さに影響します。高齢の方や持病のある方は、若い方や健康な方に比べて回復に時間がかかる傾向があります。

最近の研究では、急性血管性脳障害(脳卒中や一過性脳虚血発作など)の患者さん677人を対象に、発熱予防をしたグループと発熱時のみ治療したグループを比較しました。その結果、発熱予防をしたグループの方が発熱する量が少なかったものの、3ヶ月後の回復度には差が見られませんでした。つまり、発熱そのものは脳卒中の予後に影響を与えるものの、発熱を抑えること自体が回復度を改善するとは限らないということです。

脳梗塞の急性期には、血栓を溶かす薬を使ったり、カテーテルという細い管で血栓を取り除く治療が行われます。急性期を過ぎると、再発予防のための薬物療法と、日常生活の機能回復を目指すリハビリテーションが治療の中心となります。

脳卒中の急性期における緊急時の対応と治療法3選

脳卒中は、突然発症し、後遺症が残る可能性があるため、ご本人だけでなくご家族も大変不安になることでしょう。しかし、迅速な対応と適切な治療によって、後遺症を軽くしたり、社会復帰の可能性を高めたりすることができます。

いざという時のために、緊急時の対応と治療法について一緒に確認しておきましょう。

脳卒中の急性期における緊急時の対応と治療法3選
脳卒中の急性期における緊急時の対応と治療法3選

脳卒中の種類に応じた治療法:t-PA療法、血栓回収療法、開頭クリッピング術

脳卒中は主に、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血管が破れる脳出血、脳の表面の血管が破れるくも膜下出血の3種類に分けられます。

それぞれ原因や症状が異なるため、治療法も異なります。

  1. t-PA療法(血栓溶解療法): これは、脳梗塞の治療に用いられる方法です。t-PAという薬を点滴で投与し、血管に詰まった血栓を溶かします。この薬は「組織プラスミノーゲンアクチベーター」というタンパク質の一種で、体内で血栓を溶かす働きを促進する作用があります。発症から4.5時間以内に投与することが非常に重要です。なぜなら、発症から時間が経つにつれて、損傷を受けた脳細胞が回復不能になってしまう可能性が高まるからです。4.5時間を超えると、t-PA療法のメリットよりも出血などの副作用のリスクが高くなってしまいます。


    近年の研究では、中国人を対象とした急性期虚血性脳卒中における機械的血栓除去術に関する研究で、Trevo®リトリーバーを用いた治療の有効性と安全性が示唆されています。Trevo®リトリーバーとは、カテーテルの先端に取り付けられた特殊な器具で、血管内で血栓を捕らえて回収するものです。


  2. 血栓回収療法: t-PA療法ができない場合や効果が不十分な場合に、カテーテルという細い管を血管に通して、血栓を直接取り除く方法があります。これは、比較的新しい治療法で、より多くの患者さんに適用できる可能性があります。


  3. 開頭クリッピング術: 脳動脈瘤が破裂して起こるくも膜下出血の治療法です。手術で頭を開き、破裂した動脈瘤をクリップで挟んで、再出血を防ぎます。脳動脈瘤とは、脳の血管の一部が風船のように膨らんだ状態のことで、破裂するとくも膜下出血を引き起こします。


緊急時の対処法:119番通報、FAST(顔・腕・言葉・時間)チェック

脳卒中の疑いがある場合、一刻も早く治療を開始することが重要です。少しでも異変を感じたら、ためらわずに119番通報をして救急車を呼びましょう。

救急車を待つ間、FASTチェックを行いましょう。

  • F(Face:顔): 顔の片側が歪んでいないか、笑顔が作れるかを確認します。
  • A(Arm:腕): 両腕を前に伸ばし、片方の腕が下がらないかを確認します。
  • S(Speech:言葉): 言葉がうまく話せるか、相手の言葉が理解できるかを確認します。
  • T(Time:時間): 症状が出始めた時間を確認し、救急隊員に伝えます。

これらの症状が見られた場合、脳卒中の可能性が高いです。救急隊員には、FASTチェックの結果と発症時刻を必ず伝えましょう。

松本 和樹
松本 和樹

ゴールデンタイムの重要性
救急外来に運ばれてきた60代男性の脳梗塞患者で、発症から2時間以内というタイミングでした。血栓溶解薬(t-PA)を投与し始めてから30分後、ベッドの上で「あれ、手が動く」と驚かれた時の感動は忘れられません。
脳梗塞治療には「ゴールデンタイム」があり、発症から4.5時間以内なら劇的な改善が期待できます。
しかし1分1秒が貴重で、「Time is Brain(時は脳なり)」という言葉通り、迅速な判断と行動が患者さんの人生を左右するのです。

発症直後から始まる急性期治療:血圧管理、脳圧管理、体温管理

脳卒中の急性期治療は、発症直後から始まります。

命を守るだけでなく、後遺症を最小限に抑えるためにも、以下の3つの管理が重要です。

  • 血圧管理: 高血圧は脳卒中の大きな危険因子です。急性期には、血圧を適切にコントロールすることで、再発や症状の悪化を防ぎます。
  • 脳圧管理: 脳梗塞や脳出血では、脳が腫れて脳圧が上がる場合があります。脳圧が高い状態が続くと、脳に深刻なダメージを与える可能性があります。脳圧を下げる薬を使用したり、場合によっては手術が必要になることもあります。
    急性血管性脳障害患者における発熱予防に関するINTREPID ランダム化臨床試験では、発熱予防群において発熱負担が軽減したことが示唆されています。
  • 体温管理: 発熱は脳への負担を増大させるため、体温を適切に管理する必要があります。
    中等症から重症の急性期虚血性脳卒中患者を対象とした研究では、包括的肺リハビリテーションプログラムが、疲労と運動機能を改善し、脳卒中関連肺炎の発症を減少させることが示唆されています。

脳卒中急性期のリハビリテーションと社会復帰へのステップ

脳卒中は、後遺症が残るのではないかという不安を抱える方が多い病気です。

ですが、早期から適切なリハビリテーションに取り組むことで、症状を改善し、社会復帰を目指せるケースも少なくありません。

脳卒中急性期のリハビリテーションと社会復帰へのステップ
脳卒中急性期のリハビリテーションと社会復帰へのステップ

急性期リハビリテーションの開始時期と内容:早期離床、日常生活動作訓練、言語療法

急性期リハビリテーションは、発症後24~48時間以内、できる限り早く開始することが推奨されています。患者さんの状態が安定したら、まずベッドから起き上がり、座ったり立ったりする練習から始めます。

まさに「山火事」の初期消火活動のように、迅速な対応がその後の経過を大きく左右します。

急性期リハビリテーションの内容は、大きく分けて3つあります。

  1. 早期離床: 寝たきりによる体力や筋力の低下を防ぎ、合併症のリスクを減らすため、早期にベッドから出て活動を始めます。車椅子に座ったり、ベッドの端に座ったりするだけでも効果があります。これは、脳卒中後の患者さんにとって、身体機能の維持・向上に大きく貢献します。
  2. 日常生活動作訓練(ADL訓練): 食事、トイレ、着替え、入浴など、日常生活に必要な動作の練習を行います。スプーンやフォークを使ったり、服のボタンをとめたりといった、細かい動作の練習も含まれます。脳の損傷部位によっては、これらの動作が困難になる場合があり、日常生活動作訓練は、患者さんが再び自立した生活を送れるようにサポートする上で重要な役割を果たします。
  3. 言語療法: 言葉の理解や発話が難しくなった場合、専門の言語聴覚士による言語療法を行います。「あいうえお」の発音練習、絵を見て物の名前を答える練習、簡単な会話の練習などを通して、コミュニケーション能力の回復を目指します。脳卒中では、言語中枢が損傷を受けることで、言語障害(失語症)が生じることがあります。言語療法士は患者さんの状態に合わせた適切なプログラムを作成します。

脳卒中の急性期は、脳がダメージを受けた直後で、機能が低下している状態です。この時期に適切なリハビリテーションを行うことで、脳の機能回復を促進し、後遺症を最小限に抑える効果が期待できます。

脳梗塞や脳出血(脳卒中)になった後、手や腕がうまく動かなくなることがあります。このような時のリハビリでは、機械の助けを借りながら練習する方法と、機械を使わずに練習する方法があります。Rozevinkらの研究では、どちらの方法も同じくらい効果があることが分かりました。

つまり、機械に手伝ってもらいながら手や腕を動かす練習をしても、自分の力だけで練習をしても、回復の効果に差はないということです。これは、患者さんにとって大きな希望となるでしょう。

家庭復帰に向けた準備:住宅改修、介護保険サービスの利用

家庭復帰に向けては、自宅での生活を安全かつ快適に送れるように準備することが大切です。住環境の整備や介護サービスの利用について検討しましょう。

具体的には、以下のような準備をしておくと安心です。

  • 住宅改修: 自宅内の段差を解消したり、手すりを設置したりすることで、転倒のリスクを減らすことができます。浴室やトイレにも手すりを設置すると、より安全です。
  • 介護保険サービスの利用: 介護保険制度を利用することで、自宅での介護サービスを受けることができます。訪問介護、訪問入浴、訪問看護、通所リハビリテーションなど、さまざまなサービスがあります。ケアマネージャーに相談し、ご自身の状況に合ったサービスを利用しましょう。

社会復帰支援:復職支援プログラム、就労移行支援

脳卒中を経験すると、仕事への復帰が不安になる方もいるかもしれません。社会復帰を目指す方のために、さまざまな支援制度が用意されています。

  • 復職支援プログラム: 職場復帰を目指す方を対象に、身体機能の回復や仕事に必要なスキルの再習得を支援するプログラムです。
  • 就労移行支援: 一般企業への就職を目指す方を対象に、就職活動のサポートや職場での適応訓練などを行います。

後遺症によるQOL向上のための継続的なリハビリテーション:維持期リハビリテーション、訪問リハビリテーション

急性期を過ぎた後も、継続的なリハビリテーションを行うことで、後遺症による生活の質(QOL)の向上を目指すことができます。

  • 維持期リハビリテーション: 急性期治療後のリハビリテーションで、入院または外来で継続して行います。日常生活動作の改善、身体機能の維持・向上を目指します。
  • 訪問リハビリテーション: 理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが自宅を訪問し、リハビリテーションを行うサービスです。通院が難しい方でも、自宅で継続的にリハビリテーションを受けることができます。

Polzinらの研究では、長期的なFXa阻害薬(血栓の形成を抑える薬)の投与が、急性心筋梗塞および脳卒中後の血栓炎症を軽減することが示唆されています。これは、慢性期におけるリハビリテーションの重要性を改めて示すものです。

脳卒中後のリハビリテーションは長期にわたる場合もあります。焦らず、ご自身のペースで継続していくことが大切です。

まとめ

脳卒中 急性期 治療

脳卒中の急性期は、発症直後から症状が安定するまでの期間で、その後の経過を大きく左右する重要な時期です。血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血、脳の表面の血管が破れるくも膜下出血の3種類があり、それぞれ適切な治療が必要です。

脳梗塞の場合、t-PA療法や血栓回収療法といった血栓を取り除く治療が、発症後できるだけ早く行われます。くも膜下出血では、開頭クリッピング術などで再出血を防ぎます。

緊急時には、FAST(顔・腕・言葉・時間)チェックを行い、119番通報をして病院を受診しましょう。急性期治療では、血圧、脳圧、体温の管理が重要です。

急性期のリハビリテーションは早期離床、日常生活動作訓練、言語療法などがあり、後遺症を最小限に抑えるために重要です。自宅復帰に向けては、住宅改修や介護保険サービスの利用を検討し、社会復帰には復職支援プログラムや就労移行支援が役立ちます。

継続的なリハビリテーションはQOL向上に繋がり、焦らずご自身のペースで続けることが大切です。

参考文献

  1. Rozevink SG, Hijmans JM, Horstink KA, van der Sluis CK. “Effectiveness of task-specific training using assistive devices and task-specific usual care on upper limb performance after stroke: a systematic review and meta-analysis.” Disability and rehabilitation. Assistive technology 18, no. 7 (2023): 1245-1258.
  2. Zhang Q, Liu H, Sun J, Shi H. “Reducing stroke-associated pneumonia through pulmonary rehabilitation in moderate-to-severe acute ischemic stroke.” European journal of medical research 30, no. 1 (2025): 208.
  3. Zhang X, Liu J, Han H, et al. “Effectiveness and safety of the Trevo® Retriever for mechanical thrombectomy in Chinese patients with acute ischemic stroke: Trevo Retriever China Registry.” Interventional neuroradiology 31, no. 1 (2025): 107-113.
  4. Greer DM, Helbok R, Badjatia N, et al. “Fever Prevention in Patients With Acute Vascular Brain Injury: The INTREPID Randomized Clinical Trial.” JAMA 332, no. 18 (2024): 1525-1534.
  5. Polzin A, Benkhoff M, Thienel M, et al. “Long-term FXa inhibition attenuates thromboinflammation after acute myocardial infarction and stroke by platelet proteome alteration.” Journal of thrombosis and haemostasis : JTH 23, no. 2 (2025): 668-683.

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
先頭へ
戻る