突然ですが、もしあなたの大切な人が、言葉に詰まったり、片方の腕が上がらなくなったらどうしますか?
実はこれ、脳卒中の典型的な前兆です。その他にも、突然の激しい頭痛や嘔吐、めまい、ろれつが回らない、片側のしびれなど、様々な形で前兆が現れます。
日本では年間約29万人が脳卒中で倒れ、後遺症を抱える方も少なくありません。 しかし、その多くは前兆を見逃してしまうことで、手遅れになってしまうケースが多いのです。
これらのサインを見逃さず、迅速な対応をとることで、後遺症を最小限に抑え、社会復帰の可能性を高めることができます。
この記事では、命を救う早期発見のサイン、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の5つの代表的な前兆と、いざという時のための緊急時の対応策を医師監修のもと4つのポイントに絞ってご紹介します。
「まさか自分が」ではなく、「もしもの時」に備えて、ご自身やご家族を守るためにも、ぜひ最後まで読んで、今すぐ脳卒中の知識を身につけておきましょう。
目次
脳卒中の前兆を見逃さないための5つのサイン

脳卒中は、突然発症し、後遺症が残る可能性もある恐ろしい病気です。しかし、前兆に気づくことで、早期発見・早期治療につながり、後遺症を軽くしたり、防いだりできる可能性が高まります。
脳卒中は大きく分けて、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、脳を覆うくも膜の下の血管が破れる「くも膜下出血」の3つのタイプがあります。
これらは症状の出方が少しずつ異なり、それぞれに特徴的な前兆を示す場合があります。
ご自身やご家族のために、脳卒中の前兆を正しく理解し、迅速な対応を心がけましょう。
片側の顔や手足のしびれ・麻痺
顔の半分、あるいは手足の片側だけにしびれや麻痺、力が入らないなどの症状が現れたら、脳卒中の前兆かもしれません。
麻痺は、完全に動かない場合だけでなく、いつもより動きにくい、感覚が鈍いといった軽い症状の場合もあります。
「箸が持ちにくい」「ボタンがかけにくい」「スリッパが脱げやすい」といった、普段何気なく行っている動作に困難を感じる場合も、脳卒中の前兆の可能性があります。
特に、脳梗塞の場合、これらの症状は一時的に出現し、数分から数十分で自然に消失してしまうこともあります。これを「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼びます。
TIAは脳梗塞の前触れとなることが多く、放置すると本格的な脳梗塞につながる危険性が高いので、症状が軽快しても必ず医療機関を受診しましょう。
ろれつが回らない、言葉が出にくい
急にろれつが回らなくなったり、言葉が出にくくなったりするのも、脳卒中のサインです。
「はい」や「ありがとう」などの簡単な言葉ですらうまく言えない、出てこない場合は要注意です。周りの人に「ろれつが回ってないよ」と指摘される場合も、脳梗塞や脳出血の前兆かもしれません。
くも膜下出血の場合、言語障害はあまり見られませんが、意識障害や激しい頭痛を伴うことが多いです。
急な激しい頭痛
経験したことのないような、突然の激しい頭痛は、特にくも膜下出血の前兆である可能性が高いです。
しばしば「バットで殴られたような」「頭をハンマーで殴られたような」と表現されるほどの強烈な痛みで、経験したことのないような激しい痛みです。
いつもの頭痛と違うと感じたら、すぐに病院を受診しましょう。
脳梗塞や脳出血でも頭痛が起こることはありますが、くも膜下出血のような激しい痛みはあまり見られません。
めまい、ふらつき、歩行困難
急にめまいがしたり、ふらついたり、歩行が困難になる場合も、脳卒中の前兆の可能性があります。
特に、立っていられない、まっすぐ歩けないほどの強い症状の場合は、脳梗塞や小脳出血が疑われます。すぐに救急車を呼びましょう。
めまいやふらつきは、様々な原因で起こり得る症状ですが、脳卒中の場合、他の前兆症状(片側の麻痺やしびれ、ろれつが回らないなど)を伴うことが多いです。
急な視力障害、物が二重に見える
片目、もしくは両方の目に、急な視力障害が起こることもあります。
物が二重に見えたり、視野が狭くなったり、カーテンがかかったように視界がぼやけたりするなどの症状が現れたら、脳卒中の前兆かもしれません。視野の異常は、脳のどの血管が詰まるか、破れるかによって症状の出方が異なります。
心房細動という不整脈があると、心臓内で血液が滞りやすくなり、血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が脳の血管に詰まると、脳梗塞を引き起こす可能性があります。
心房細動は自覚症状がない場合も多いので、動悸や息切れなどの症状がなくても、健康診断などで定期的な心電図検査を受けることが重要です。

軽度の頭痛パターンの変化
長年片頭痛に悩んでいた45歳女性が「いつもの頭痛と何か違う感じがする」と受診しました。痛みの場所や性質が以前と異なり、吐き気も強くなっていました。MRIで小さな脳動脈瘤が見つかり、経過観察中に軽度の出血の兆候も確認されました。
「いつもの頭痛」でも、パターンが変わった時は要注意で、くも膜下出血の前兆である「警告頭痛」の可能性があります。
患者さん自身の「いつもと違う」という感覚を大切に、詳しい検査を行うようにしています。
脳卒中の前兆が出たらどうする?4つの緊急対応

脳卒中は、迅速な対応が後遺症を最小限に抑える鍵となります。前兆に気づいたら、落ち着いて行動することが大切です。
脳卒中の前兆時の緊急対応を4つのポイントに絞って解説します。
すぐに救急車を呼ぶ
脳卒中の疑いがある場合は、ためらわずに119番通報し、救急車を呼びましょう。時間との勝負です。
ご自身や周りの方が脳卒中の前兆と思われる症状に気づいたら、一刻も早く救急車を要請してください。
救急隊員は専門的な訓練を受けており、適切な初期対応を取りながら病院へ搬送してくれます。搬送中に症状が軽快したように見えても、自己判断で搬送を中止しないでください。症状が一時的に改善しても、再発したり後遺症が残る可能性があります。また、医療機関で医師の診察を受けた結果、脳卒中ではないと診断される場合もあります。
救急外来で意識消失前兆を訴える患者の短期的な重篤な転帰(30日以内の予後が悪化する確率)は4%から27%と報告されており、中でも不整脈が最も多い重篤な転帰です。このように、意識消失前兆がある場合でも重篤な転帰に至る可能性があるため、必ず医療機関を受診することが重要です。
落ち着いて症状を観察する
救急車を待っている間、落ち着いて症状を観察し、記録しましょう。症状が出始めた時間、どのような症状か(顔の麻痺、腕の麻痺、言葉が出にくい、激しい頭痛、めまいなど)を具体的にメモしておくと、後の診断や治療に役立ちます。
例えば、「午前10時に右手のしびれに気づき、10時15分にはろれつが回らなくなった」のように、具体的な時間と症状を記録してください。
救急隊員や医師に正確な情報を伝えることは、迅速で適切な治療開始に不可欠です。症状の変化を把握することも、適切な治療方針決定に役立ちます。記憶が曖昧にならないよう、落ち着いて観察・記録しましょう。意識がはっきりしているうちに、ご家族や周りの方に症状を伝えておくことも有効です。
アメリカ心臓協会/アメリカ脳卒中協会が推奨する「FAST」という記憶しやすい覚え方があります。
顔(Face)の麻痺、腕(Arm)の麻痺、言葉(Speech)の障害があれば、時間(Time)を無駄にせず、すぐに救急車を呼ぶことを推奨しています。
普段服用している薬があれば伝える
救急隊員や医師には、普段服用している薬があれば伝えましょう。お薬手帳があれば持参してください。服用中の薬によっては、脳卒中の治療に影響を及ぼす可能性があります。
また、持病やアレルギーについても必ず伝えましょう。些細なことでも伝えることが、適切な治療につながります。
例えば、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を服用している場合、脳出血のリスクを高める可能性があります。救急隊員に伝えることで、搬送中の適切な処置や病院到着後のスムーズな治療開始につながります。
脳卒中専門病院へ搬送依頼をする
救急隊員に脳卒中専門病院への搬送を依頼しましょう。脳卒中の治療には専門的な知識と設備が必要です。専門病院には、脳卒中の専門医や高度な医療機器が揃っているため、より適切な治療を受けることができます。
認知症は発症の10年前から認知機能が低下し始めるなど、様々な前兆を伴う長い前駆期を持つことが報告されています。脳卒中も早期発見・早期治療が重要です。専門病院への搬送は、後遺症を最小限に抑え、社会復帰を目指す上で大きな役割を果たします。
まとめ

脳卒中は、前兆を見逃さず、迅速な対応をすることで後遺症を最小限に抑えられる可能性が高まります。
片側の手足のしびれや麻痺、ろれつが回らない、激しい頭痛、めまい、急な視力障害といった症状が現れたら、脳卒中の前兆かもしれません。少しでも異変を感じたら、ためらわずに119番通報し、救急車を呼びましょう。救急車を待つ間は、落ち着いて症状を観察し、記録しておきましょう。
普段服用している薬や持病があれば、救急隊員や医師に伝えることも大切です。
迅速な対応で、あなたの大切な命を守りましょう。
参考文献
- Mirfazaelian H, Stiell I, Masoomi R, Garjani K, Thiruganasambandamoorthy V. “Serious outcomes among emergency department patients with presyncope: A systematic review.” Academic emergency medicine 2024.
- Ko D, Chung MK, Evans PT, Benjamin EJ, Helm RH. “Atrial Fibrillation: A Review.” JAMA 333, no. 4 (2025): 329-342.
- You J, Guo Y, Wang YJ, Zhang Y, Wang HF, Wang LB, Kang JJ, Feng JF, Yu JT, Cheng W. “Clinical trajectories preceding incident dementia up to 15 years before diagnosis: a large prospective cohort study.” Molecular psychiatry 29, no. 10 (2024): 3097-3105.

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部卒業
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