脳卒中とは
ここでは脳卒中とは何か、その概要や脳卒中の症状などを解説していきます。
概要
脳卒中は脳内の血管に何らかの障害が発生することで症状を起こす病気です。「卒中」という言葉は突然を意味する卒然、中(あた)るで構成されていることから、突然生じるという意味があります。脳内の血管に障害が発生して突如異常が起きる状態が脳卒中です。
脳卒中はいずれの場合も重篤な症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。脳卒中が日本人の死因の上位に来るなど、絶対に無視はできない病気の1つでもあるのです。
種類

脳卒中には、血管が詰まることで生じる症状と血管が破れることで生じる症状の2種類があります。いずれのケースも発生すれば大変な事態を招くでしょう。ここからは2種類の脳卒中について解説します。
血管が詰まる症状
脳内の血管が詰まる症状は、何らかの原因で脳内の血管が詰まり、詰まった部分から先の細胞が壊死してしまう状態を指します。血管が詰まる症状の代表例として脳梗塞と一過性脳虚血発作があります。
脳梗塞
脳梗塞は脳内の血管が詰まって血流が脳内に巡らなくなるという症状です。詰まった状態を放置すると細胞は壊死し、二度と復活することはありません。
脳梗塞の中には脳内の細い動脈が詰まることで生じるラクナ梗塞、大きな血管が狭窄することで生じるアテローム血栓性脳梗塞、心臓内の血栓が脳内に行ってしまって引き起こす心原性脳塞栓症などがあります。
高血圧や糖尿病など生活習慣病が原因で引き起こされるケースが多く、じわじわと進行していく中である日突然発症します。
一過性脳虚血発作
一過性脳虚血発作(TIA)は脳内の血管が詰まるなど一定の部分だけ脳梗塞と共通するものの、その後血流が改善して症状が治まるのが特徴です。一過性脳虚血発作は脳梗塞の前兆として知られ、運よく最悪の事態は回避できたものの、いつなってもおかしくない状態と言われています。
そのため、一過性脳虚血発作が発生した時点で速やかな治療と生活習慣の改善、定期的な通院が求められるでしょう。
血管が破れて出血する症状
次にご紹介するのは脳内の血管が破れて出血することで発症する症状についてです。主に脳出血やくも膜下出血が該当します。
脳出血
脳出血は脳内の細い血管が破れることで生じる症状です。穿通枝と呼ばれる細い血管のおかげで脳内に血液が巡ります。この穿通枝が高血圧などを原因として破れてしまい、出血によって血腫ができ、脳細胞を圧迫して壊してしまうのが脳出血です。
血圧の影響が大きく、血圧が高まりやすい朝に発症しやすいと言われています。早急に治療すれば出血自体は止められますが、最悪の場合は1時間程度で悪化し、死に至ることもあります。
くも膜下出血
くも膜下出血は硬膜の下にあるくも膜近くの太い血管が破れて出血することで生じる症状です。脳内の血流はくも膜近くにある太い血管から分岐していく形で脳内に血流が巡っていくしくみになっています。
くも膜下出血はこの太い血管が破裂し、くも膜近くで出血が起きることで発症します。くも膜下出血は事故など外傷によって生じることもあるため、若い人でも発症することがあり、最悪の場合は死に至ってしまいます。
くも膜下出血は太い血管との分岐地点において発生しやすい脳動脈瘤が破裂することで生じます。脳ドックでは脳動脈瘤の存在を確認できるため、脳動脈瘤をこれ以上大きくさせないような治療をしていくことになるでしょう。
その他の疾患
脳卒中の代表的な症状は脳出血やくも膜下出血、脳梗塞が挙げられますが、その他にもいくつか症状があります。
脳動脈解離は動脈の壁が解離するもので、動脈壁が解離することで生じる痛みを感じ、その後出血します。そのため、くも膜下出血などを疑う人も少なくありません。脳動脈解離は若い世代でも起こるとされ、特にカイロプラクティックなど外傷によって引き起こされるケースがあります。
ウイリス動脈輪閉そく症、通称もやもや病も脳卒中の範疇です。もやもや病は気分がもやもやするからつけられたのではなく、脳内の動脈が細まり、最終的にもやもやとした血管が血液を供給する状態をもやもや病と称します。
小児期で発症する若年型、働き盛りの世代で発症しやすい成人型があり、女性が比較的かかりやすい病気とされています。
脳卒中の症状

脳卒中の症状には様々なものがあります。いずれも脳内を圧迫するため、何かしらの異常を感じやすくなっています。ここからは脳卒中の症状についてご紹介します。
①運動・感覚・構音障害
脳卒中を発症すると、運動障害や感覚障害、構音障害を発症します。具体的には麻痺がある、しびれがある、感覚がなくなる、呂律が回らないなどが当てはまります。
片麻痺は左右いずれかに麻痺がみられる状態で、左脳に障害が出れば右側に、右脳に障害が出れば左側に麻痺が見られます。構音障害は声が出しにくい、呂律が回らないなどがあり、脳卒中の後遺症としても知られる障害です。
②高次機能障害
高次機能障害は、失語症や失認などの症状が出る障害です。言語や記憶など認知にかかわる部位が損傷することで起こりやすく、感情の高ぶりを抑えられない、考えが理解できない、段取り良く物事を進められないなどの症状が出てしまいます。
高次機能障害の大半は脳卒中が原因です。また別名「見えない障害」とも言われ、外見からは高次機能障害とは気づかれにくく、一方で様々な障害が体の中で起こっていることから、何も知らない人には誤解を受けやすい状態になります。
③その他
脳卒中は頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害などもあります。特に意識障害や頭痛などを発症するのがくも膜下出血です。脳卒中になると脳内の一部分が酸欠状態になるなどして意識障害につながります。
また脳卒中を発症した部位が脳幹など生命維持にかかわる部分だと突如意識不明に陥ることもあるのです。
脳卒中の前兆・初期症状
脳卒中の前兆・初期症状として、代表的なのが一過性脳虚血発作(TIA)です。一過性脳虚血発作は一時的に脳梗塞などの状態になり、しばらくすると症状が消えるというもので、先ほどの脳卒中の症状を一時的にでも複数経験し、しかも頻発している場合には脳卒中の可能性が考えられます。
例えば急にしびれる、痙攣が起きる、頭痛がある、意識を失うなどの症状がいくつもあれば、脳卒中の前兆もしくは初期症状の段階にあると言えます。この状態で検査を受けることができれば、最悪の事態を回避することは十分に可能です。
脳卒中の後遺症
脳卒中の後遺症にはいくつかの障害が挙げられます。その代表的なものをまとめました。

麻痺
脳卒中の後遺症として頻繁にあるのが麻痺です。麻痺にも種類があり、運動に影響を与える運動麻痺や感覚に影響を与える感覚麻痺があります。感覚麻痺は感覚が鈍くなり、ダイレクトに感じにくくなります。
運動麻痺は思ったように体を動かしにくくなるもので、軽度であれば多少動かしにくい程度ですが、重度になるとほとんど動かせなくなるような状態になります。
失語症
左脳を損傷した場合、失語症になる場合があります。言語中枢にダメージを受けると、いわゆる読み書きなどの働きが落ちてしまうのです。失語症には、言葉は出てくるけど話の理解ができない、言葉は理解できるけど話せないといったタイプ、どちらもできないというケースもあります。
また舌などが上手く使えずに構音障害を招くケースもあります。どの障害が出るかは損傷した部位や損傷の度合いで変わってしまうのです。
高次機能障害
高次機能障害は認知にかかわる部位のダメージによって生じるもので、今までできていたものができなくなってしまうのが特徴です。当たり前のようにできていた日常生活での動作が全くわからなくなる「失行症」や物事の認識ができなくなる「失認症」などがあります。
高次機能障害は生きづらさにつながりやすく、今までできていたことができなくなることへの絶望を感じやすくなります。まして「見えない障害」として周囲の理解を得られにくいことも拍車をかけやすい状況です。
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