脳卒中の治療法
万が一脳卒中になった場合、早急な治療を行うことで少しでも後遺症の軽減につなげられます。ここでは脳卒中になった場合の治療法について解説していきます。
脳梗塞の治療

脳出血の治療
脳出血の場合は、原因のほとんどは高血圧であり、この高血圧の状態を改善することが第一になります。そのため、降圧剤を投与して高血圧の状態を解消するほか、止血剤を投与し、これ以上の出血を避けることが大切です。
また脳出血の状態は出血によって脳が圧迫されている状態のため、圧迫によって生じている浮腫をなくすことも求められます。そのため、抗浮腫剤を入れることもします。他には物理的に血の塊をとるために、開頭手術を行うなど、様々な手を講ずることになるのです。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血に関しては、血管の分岐部分に生じたこぶが破裂してしまうことで出血し、それが大きな問題となります。
そこで破裂部分を物理的にふさぐことが求められますが、そのふさぎ方がポイントです。ここからは主なふさぎ方である、開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術についてご紹介します。
開頭クリッピング術(脳動脈クリッピング術)

開頭クリッピング術は脳動脈クリッピング術とも呼ばれ、頭の骨を外して脳動脈瘤の場所にクリッピングを行うというやり方です。くも膜下出血での治療においては歴史が長い方法であり、手術後も比較的安定しやすいのが特徴的です。
また確実にクリッピングが行えるために動脈瘤の根源をふさげるほか、小さな脳動脈瘤にも対応します。
頭の骨を外すやり方のため、髪の毛を剃るなどの処置が必要と思っている方もいるかもしれませんが、実際には最大限傷跡が外から見てわからないよう、髪の毛を剃らない形で手術を行います。そのため、開頭手術をしていたことにすぐに気が付かないのも特徴です。
この手術ではおよそ10日間ほどの入院を要しますが、速やかな社会復帰を可能としており、影響を最小限に抑えながら手術を行うことができます。
血管内コイル塞栓術(動脈瘤塞栓術)

血管内コイル塞栓術は、こぶの中に金属のコイルを入れることで物理的に血流が入ってこないようにする方法です。日本ではここ10年ほどで増えてきたやり方で、最大の特徴は開頭手術をせずに済む点です。先ほどの開頭クリッピング術は確かに影響が出ないようにすることもできますが、頭の骨を外すというのはやはり負担がかかります。
しかし、血管内コイル塞栓術に関しては手首や脚の付け根など太い動脈から細いカテーテルを入れて脳動脈瘤に差し込んでいくため、頭の骨を外す必要がありません。血液が入ってない状態になれば破裂のしようがないというのがポイントです。
負担が軽減される分、年齢を重ねた方でも手術を受けられるのも大きなメリットであり、外見上からは傷が見当たらないので、今後傷跡が露出するようなこともまずありません。何より、クリッピング術では難しい部位にも対応するほか、入院期間も1週間ほどで済むのも特徴的です。
治療の流れ
実際に脳卒中になった場合、どのような流れで治療が行われるのかをご紹介していきます。
診察〜検査
脳卒中の疑いで救急車で運ばれた場合などは、最初に脳神経外科に連絡が入り、病院に到着次第、すぐさまMRI検査やCTを行います。ここで脳卒中の中でもどんな症状なのかをチェックしていきます。
MRIなどですぐにわかるケースもあれば、患者やその家族の話から症状の特徴を知り、最終的な症状を決めるケースもあります。この時点ではまだ「脳卒中の疑い」であり、場合によっては脳以外の要因で苦しんでいるケースも考えられるため、慎重な判断が求められるのです。
その上で麻痺などの強さや麻痺が起きている範囲、言語障害の度合いや問診、CTなどの結果などから総合的に診察を行い、治療に入っていきます。
治療
治療に関しては先ほどご紹介した「それぞれの症状ごとの治療法」を実践します。確実に効果のある治療を行うためにも、脳梗塞なのか脳出血なのかくも膜下出血なのか、それ以外の症状なのかを確定させます。
脳梗塞急性期のみに行う治療
脳梗塞の発症から4.5時間以内の場合にはt-PAを点滴で注入します。もしもt-PAを4.5時間よりも後に入れてしまうと、むしろ逆効果で症状の悪化を招いてしまいます。必ず、発症から4.5時間以内でなければなりません。当初は発症3時間以内とされていましたが、4.5時間以内に拡大されています。
発症24時間以内に行われる血管内治療ではカテーテルで血栓を取り除くことになりますが、下手をすれば治療の過程の中で別の場所が出血してしまう可能性もあります。そのため、血管内治療をやるべきかどうかも慎重に決めなければなりません。
治療後のリハビリ

脳卒中の治療後にはリハビリを行うことになります。このリハビリには以下の3つの時期が存在します。
- 急性期
- 回復期
- 生活期
ここからはそれぞれの時期に行うリハビリについて解説します。
急性期
急性期は発症から1か月までの期間を指します。症状にもよりますが、ずっと動かない状態だと「廃用症候群」と呼ばれる、身体が動かなくなる状態になってしまいます。そのため、症状も見ながら、リハビリを始めていき、身の回りに関する動作などを行っていきます。
ゆっくりと立ち上がる、しっかりと飲み込むなどのことを1つ1つ行っていき、脳卒中の後遺症がある状態の体を受け入れながらリハビリを行います。
回復期
回復期は発症から半年までの期間を指します。この時期になると退院して、リハビリのために通院するような形になります。日常生活の動作に支障がまだある場合は、支障が出ないようにしていくほか、社会復帰や職場復帰に向けたリハビリを行うという流れです。
家事を行う、買い物に出かけるなどのことをやりながら、発症前の状態に少しでも戻せるようにしていきます。
生活期
生活期は発症後半年以降を指し、人によってはリハビリが済んだ人も出てくるでしょう。後遺症によってはまだリハビリを要するケースもあり、少しずつ改善を図る、もしくは今の状態を維持することを行います。
脳卒中の後遺症は人によって症状に重さが異なるため、一概に期間で区切れるものではありませんが、発症から急性期までにどれだけ手を講ずることができるかがポイントになります。
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